穴だらけの理論だった「あおり文句」
訪日外国人が、前年度比50%増加して右肩上がりだったのは事実です。ですが、数年先まで(投資金額を回収し終えるまで)増加し続ける保証はありません。まず、訪日のための航空・空港の許容量が考慮されていませんし、各地の観光地の許容量も考慮されていません。そもそも、当時の宿泊施設統計には、夜行バスやネットカフェ、キャンプなどの人数が宿泊施設としてカウントされていないのです。
さらに、大きなホテルなどは、有事に備えて宿泊許容量を100%で設定していません。また、当時から大型ホテルの建設が(当時の東京五輪に向け)建設中でした。なにより、すでにあふれかえった観光客対策として、京都市内では宿泊施設(民泊)に対する法規制強化が決定していました。つまり、あおり文句である収益率の根拠(売上−費用)は、絵にかいた餅だったのです。
また、民泊に参入する者が増えるほど、需要に対して供給過多になります。すると参入者(宿泊させようとするホスト)は、一泊あたりの宿泊料を大幅に下げざるをえません(価格競争)。実際、2016年時点で一泊2万~3万円だった京都市内の宿泊料金は、2019年には1万円程度まで下がりました。
そもそも民泊ビジネスは、文化の異なる外国人を「宿泊施設ではない普通の住居」に宿泊させるビジネスです。想像以上に高度な「おもてなし」が必要なのです。民泊ブームの火付け役となった「Airbnb(エアビーアンドビー)」は「誠実な人間関係」や「多様な絆」を大切にしています。
つまり民泊は、宿泊客とホストのつながりを大切にするという、かなり上質な宿泊ビジネスが前提なのです。安易な気持ちで取り組む投機対象ではありません。民泊の基礎となる「空き家の多さ」についても同様です。単に人が住まなくなった家があるから、それを「お手軽に収益施設に転用して終わり」という話ではありません。
空き家の周辺には、長いあいだ生活をしている住民がいて、空き家の「マイナス」「プラス」いずれの部分も踏まえて向き合っています。生半可な知識と気持ちで参入できる領域ではないのです。不動産業や工務店、建築士、宿泊管理業者、弁護士、行政書士など、様々なプロでさえ手を焼くのが、民泊ビジネスという分野の実態です。