職場での人付き合いがうまくいかなかったり、話が相手に伝わらなかったりと、「対話」に関する悩みを抱えている人も多いのではないでしょうか。フリーランスでキャスターや社外役員などを行っている木場弘子氏は「無意識で使っている言葉を見直してみることが大切」といいます。木場氏の著書『次につながる対話力~「伝える」のプロがフリーランスで30年間やってきたこと~』(SDP)より、詳しく見ていきましょう。
無意識で発してしまうその言葉が相手を困らせている…「コミュニケーション上手」になりたいなら、決して言ってはいけない〈NG構文〉

マウントと会話泥棒は嫌われる

マウンティングという言葉も、今ではすっかりお馴染みになりましたが、これはもともとはお猿さんの世界で、強い立場の個体が相手の背中にのしかかり、「オレのほうがエラい」ということを示すデモンストレーションのことでした。ところが、同じ霊長類の仲間だから、というわけでもないのでしょうが、ヒト科の中にもこれが大好きで、隙あらばのしかかろうとするヒトがいらっしゃいます。

 

こうしたヒトは、たとえば――

 

「夫は取締役になってから家にいないんです」

 

「このバッグ、○○の新作で限定品なんです」

 

「自宅は鎌倉、別荘は軽井沢なので、住民税が高くって」

 

などと、自分自身のことより、肩書きや持ち物、住んでいる場所を引き合いに出して、「こっちのほうが上」だとアピールするのがお好きなよう。まあ、ここまであからさまな会話はドラマの中だけのようにも思いますが、匂わす方はいらっしゃいますよね。

 

男性の友人によると、こういうタイプに属するヒト科の男性は、パーティーなどで初対面の相手と最初は腹の探り合いをしつつ、いざ名刺に書かれた会社や役職を見たり、出身大学をさりげなく聞き出して、「こちらのほうが上だな」と、ようやく落ち着ける方もいるそうです。これでは本当に猿山そのものですね(笑)。

 

こうしたヒトビトは、いったんマウントを取ったとなると、自慢のオンパレードがどこまでも続き、聞いて差し上げるのにも忍耐が要りますよね。兎にも角にも「すごいでしょう?」の連発には、仮にこちらがそれより上の物を持っていたり、詳しい事情を知っていたとしても、知らないフリで「スゴーイ!」「羨ましい!」と驚いて見せるしかありません。

 

当然ながら、そこには共感はまるで生まれず、対話も成立しないまま。

 

こうした、傍から見て少し恥ずかしい感じにならないよう、常に意識しておくべきは「世の中、上には上がある」という当たり前の事実。それがあれば、たとえば自分のお気に入りを話す際にも「私はここが好きなんですけど、○○さんはもっといいお店をご存じでしょう?」という風に、ちょっとした可愛らしさと共に、情報共有をし「共感の種」を蒔けるのではないでしょうか。

 

そしてもう一つ、マウンティングとよく似て、しかもより乱暴な「会話泥棒」という亜種もいます。こちらは前触れも無く、いきなり人の話に被せて自分の話を始めたり、相手がまだ話しているのに待ちきれず強引に話を取って自説を展開したりします。やはり共感とはほど遠いやり方と言えるでしょう。

 

政治家が参加するテレビ討論の中には、まさに“会話泥棒天国”が展開されることも多く、仕切りもルールも無いまま我先にと話す無法状態に唖然とすることもしばしば。私の息子が小学生の頃、その様子を見て「人の話は最後まで聴かないといけないんだよねー。みんな人の話の途中で取っちゃってるから、学校だったら先生に怒られちゃうよ!」と言ってきましたが、実にごもっともでございました。

 

どこの世界にも生息している、マウンティングと会話泥棒。対話はまず尊敬心を持って、しっかりと耳を傾けることから始まります。自分は今、楽しく話しているなぁ~という時ほど、俯瞰した目で自分自身を見て戒める必要があるかもしれません。私も気をつけなくっちゃ!(笑)