自分の失敗やミスによって謝罪をしなければならないとき、「大事にしたくない」という気持ちからそれとなく済ませてしまう人が増えているようです。フリーランスでキャスターや社外役員などを行う木場弘子氏は、謝罪は「コミュニケーションの能力を最大限に発揮できる、得難いチャンス」であるといいます。木場氏の著書『次につながる対話力~「伝える」のプロがフリーランスで30年間やってきたこと~』(SDP)より、詳しくみていきましょう。
つい使いがちだが…謝罪の場面で避けるべき「相手をモヤモヤさせる」表現とは【対話のプロが助言】 (※画像はイメージです/PIXTA)

謝罪に「ありがとう」は違和感あり?

人は誰でも、ミスや失敗をおかしてしまうものです。

 

かく言う私も、新人アナウンサー時代から今日に至るまでの仕事面、あるいはプライベートでの「やらかし」は数え切れません。そうしたなかで私自身、絶対に決めていることがあります。

 

それは、間違いをおかした場合、できる限り速やかに、簡潔な理由の説明と共に誠意を持って、「すみません」と謝る姿勢です。そういった姿勢の結果、失敗をしたにもかかわらず、ご迷惑をおかけした相手の方と一層親密になれた経験も少なくないのです。

 

このような例として特に印象に残っているのが、ずいぶん前の春の出来事です。ある新聞社で撮影があり、着替えやメイクのために個室をご用意いただいたのですが、それがたまたま専務さんのお部屋でした。机をお借りしてメイクさんが道具を広げ、撮影後にはすべて片づけて帰ったところ、後になってメイクさんから電話が入りました。

 

「木場さん、すみません。メイク道具と一緒に、机の上にあった点鼻薬を持ち帰ってしまいました」

 

それを聞いて、慌てて新聞社の担当者にお電話をしたところ、点鼻薬は専務さんの私物とわかりました。ちょうど花粉症でつらい季節でしたから、職場で使われていたのでしょう。

 

専務さんからは「自宅にも予備があるのでお気になさらず」とのお言葉が届きましたが、こちらとしてはご厚意でお部屋を貸していただいたのに、とんだご迷惑で本当に申し訳ない気持ちで一杯に。すぐに便箋を出してお詫びの手紙を書き、小さなお菓子と一緒に点鼻薬をお送りしました。

 

ほどなく、専務さんからは丁寧なご返信が届き、「この件をご縁に木場さんと知り合いになれて、かえって光栄でした」という思いがけない優しいひと言。救われた気持ちがしたものです。以来、毎年の年賀状をやり取りさせていただくようになり、専務さんもお孫さんのお話を書いて下さったりして、一度もお目にかかったことは無いものの、謝罪から始まるご縁もあるのだなと、しみじみ有り難く思った次第です。

 

逆に、先方が謝って下さったことから始まったご縁もあります。雑誌とWEBに対談を掲載するお仕事の際、窓口の男性が伝えるべき大事なことをこちらに伝えていなかったため、大きな行き違いが生じたことがありました。

 

その折、当の男性が色々と釈明をしている横から、上司の方がビシッと厳しい言葉をかけ、私に向かって「大変申し訳ありませんでした」と謝って下さいました。その後は、すべての編集作業の窓口をその上司の方が担当。本来なら部長さんクラスの方は現場作業には関わらないものですが、責任を持ってインタビュー3本を仕上げて下さったのです。

 

以来、私もその方を深く信頼し、現在に至るまで他の仕事についても相談し合える関係を築けています。「禍転じて福となす」ではありませんが、非常にストレスフルなトラブルから、潔い謝罪がきっかけで素晴らしいパートナーシップに結びついたことには感謝するばかりです。