今回は、がん治療を取り巻く「自由診療」の現況と課題について見ていきます。※本連載は、生命保険の専門家であり、自身も医師として活躍する佐々木光信氏の著書、『比較検証、がん保険 』(保険毎日新聞社)の中から一部を抜粋し、近年長足の進歩を遂げている「がん医療」の種類と変遷を紹介します。

未承認薬に関連した自由診療は縮小するとの予想も

自由診療が実施されている主要分野は、図表1のとおりですが、公的医療保険が充実している日本では、決して自由診療の規模は大きくないと考えられます。

 

[図表1]現在の3大自由診療

 

先制医療元年と呼ばれた2015年には、個別的予防医療に力を入れることを医療界と政府も宣言しています。しかし、予防医療は基本的に公的保険が利用できないので、自費診療の領域になります。今後、自由診療が拡大する予測があります(以下図表2参照)。

 

[図表2]がん関連の自由診療の動向

 

一方で、短期的には未承認薬に関連した自由診療の領域は縮小することが予想されます。未承認の抗がん剤使用は各種の保険外併用療養費の対象医療(評価療養、患者申出療養、拡大治療制度など)が拡充されたからです。また、乳癌手術後のインプラント式乳房再建術が保険適用されたため、自由診療の乳房再建は減少することになりました(上記図表2参照)。

 

自由診療の医療がどの程度増減するのか予測はできませんが、今後拡大する自由診療としては、がん治療に関連した生殖細胞の保存や先制医療の代表としてアンジェリーナ・ジョリーが受けたがん遺伝子検査による予防的乳房切除などが考えられます(上記図表2参照)。

民間保険会社の自由診療保障で、医療費が高くなる!?

さて、民間保険会社が自由診療を保障することは、「保険診療を否定する行為である」、「公的な保険制度を縮小させ民営化してビジネスを拡大しようとしている」あるいは「米国のような医療制度にしようとしている」などの批判もあります(以下図表3参照)。

 

[図表3]民間保険会社が自由診療補填商品販売することへの批判

 

したがって自由診療を保障する商品を投入することには慎重でなければなりません。公的医療保険の堅持は、国民の総意と考えてよいからです。

 

さて、全く制限のない完全な自由診療と異なり、先進医療や患者申出医療など公的に管理された混合診療とこれに伴う患者の負担は確実に拡大すると考えられます。したがって、これらの混合診療と民間保険の関係を整理しておく必要があります。その点に関して民間保険のサービスに関する懸念点は以下の通りです。

 

●患者の医療におけるコスト意識醸成の阻害

●医療費の高止まり

●医療機器・製薬メーカーにおける保険適用マインドの阻害

●過剰・重複給付

 

治療に300万円もかかる粒子線治療が先進医療とされていたため各保険会社がこの点を強調し高額自由診療を保障できる商品として先進医療特約の効用を喧伝してきました。このため各社とも粒子線治療の公的保険適用の動向に注目してきたのです。

 

保険適用になれば附加ポイントが失われること、保険に加入すれば粒子線治療を負担無く受けられると説明を受けていたユーザーが逆に3割(約90万円)の負担を強いられることになるという民間保障のサービス提供の限界と矛盾が露見することに気をもんんでいたのです。

 

しかし、これでは民間保険業界が医療費の高止まりを希望しているかの批判を受けてしまいます。

比較検証、がん保険

比較検証、がん保険

佐々木 光信

保険毎日新聞社

生命保険の専門家である著者が、近年長足の進歩を遂げている「がん医療」に保険会社はいかに対応しているのか、そして今後のがん医療はどう変化していくのかを解説しながら、現代のがん保険需要にマッチした主要保険会社のがん…

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