インタビュー:池上彰氏と考える広報の「伝える力」
池上彰氏プロフィール
名城大学教授、東京工業大学特命教授など6つの大学で教壇に立つ。1950年、長野県生まれ。1973年にNHKに記者として入局。松江、呉での勤務を経て東京の報道局社会部。1994年から2005年まで「週刊こどもニュース」の“お父さん”。2005年に独立し、現在に至る。
インタビュアー:著者
海外出張時は現地の新聞も購入
そういえば、2022年の米国中間選挙の際、アメリカに長期出張されていましたよね。あのような時は、新聞はどのようにしてチェックされているのですか? 帰国後、まとめて読むのでしょうか。
池上:国外にいる時は、日本の新聞は電子版で見るようにしています。同時に、現地の紙の新聞もせっせと買っていますね。
アメリカにいた時のことをお話ししますと、小さな売店ではなかなか数が集まらないので、ニューヨークのグランド・セントラル駅まで毎日通いました。そこで、ニューヨーク・タイムズやウォール・ストリート・ジャーナル、イギリスのフィナンシャル・タイムズなどを購入していました。タブロイド紙で言うと、ニューヨーク・ポストやニューヨーク・デイリーニューズもチェックしていましたね。
売り場のスタッフの方とすっかり仲良くなり「あなた、こんなに新聞を買っていたら、家が新聞だらけになるでしょう」と、からかわれることもありました。
クリッピングで世の中の見え方が変わる
購入した新聞はその後、どうしていたのですか? 私たちのような広報業界では、クリッピングと言って、気になる記事を切り抜いて集めたり、保管したりするのですが。
池上:私も、せっせと切って貼る、ということをしています。こうして記事を集めていると、世の中の見え方が変わってくると思っていて。
アメリカでも、そう感じられたことはありましたか?
池上:そうですね、米国中間選挙を例とすると、ニューヨーク・ポストは徹底して反民主党の立場をとっています。毎日毎日、民主党の悪口ばかりを書いていましたよね。ところが、中間選挙で共和党が伸びず、民主党が健闘する結果となりました。その理由について、共和党内では「トランプ前大統領のせいでは」とささやかれていたんです。
そして、中間選挙が終わった直後、トランプ前大統領が「2024年の大統領選挙に出る」と宣言しました。すると、記事では「フロリダの男が立候補宣言」と書き、トランプ氏を全面に出さなくなったんです。
すごい表現ですね。
池上:そうなんです。これを見ると、「共和党内部で反トランプがこんなに増えているんだ」「トランプ氏の今後はかなり危ういのでは」ということが見えてきます。このようなものは、現地に行ったり、情報を集めたりしてはじめてわかることです。
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