本来は「緊張感」を持続できる場が望ましいが・・・
考える力をつける思考教育は、理想をいえば、緊張感を持続できる場で取り組むのが望ましいでしょう。具体的には、授業時間中は子どもたちに対してひと言も発しないことで有名な「宮本算数教室」や、私の塾のようなところです。
こうした場では、空間の力が働きます。自分一人ががんばっているのではなく、まわりにいる他の子どもたちも、一生懸命に考え続けている。その空気感が、子どもに心地よい緊張感を与えます。自分もがんばって考えようという意欲をかき立てます。
だからといって、考える訓練が家庭でできないわけではありません。ユダヤの人たちにとって教育とは、まず家庭で行うべきものでした。安息日に家庭で行う教育が、ユダヤ民族に飛び抜けて多いノーベル賞受賞者につながったのです。
難関校の入試問題を、親子で一緒に考えてみる
頭を鍛える訓練はもちろん家庭でもできます。そのために必要なことは、親が意識を変えることです。
勉強とは何をすることなのか。頭を使うことです。計算練習をすることでも、簡単に解ける問題を機械的に繰り返すことでもありません。そんなことをいくら繰り返しても考える力はまったく養えません。
子どもがわからないと言った時に、教えてあげることも違います。灘中学校や開成中学校の入試問題などの難問を、親子で一緒に考えてあげればよいのです。できれば30分、最低でも20分間、子どもの緊張が切れないように、集中して考え続けることができるように、横についてあげる。
仮に親が解けたとしても、それを子どもに説明しないでください。むしろ、親は解けない方がいい。問題文を一文ずつ読みながら、子どもに尋ねてあげましょう。
例えば「お父さんは、この問題の意味がよくわからないんだけど、どういうことかな?」とか「お母さんにもわかるように教えて?」といった案配です。あるいは「お父さんは、こう思ったけれど、どうかな?」と自分が思いついたことを口にするだけでも構いません。
要は、子どもの緊張感を維持し、少しでも長く考え続けるように導くことです。結果を焦らないことも大切です。おそらく家庭で取り組む場合は、塾で訓練するよりも、成果が出るまでにかかる時間は長くなるでしょう。けれども、考える訓練を続けていれば、間違いなく考える力は養われていきます。
親の役割は「考える大切さ」を伝えて励ますこと
子どもが本当に考えているかどうかは、子どもの目を見ていればわかるものです。真剣に考えている時は、目に力があり輝いています。これがどう考えても先に進めなかったり、考える手立てがなくなったりしてしまった時に目の力は失われてしまいます。
親が見てあげるポイントは、ここです。子どもたちの目が死んできた時に、考える大切さを伝えて励ますのです。苦しいけれど、がんばろうとやる気を起こさせるのです。塾では子どもたちを励ました上で、講師がヒントを与えます。
といっても、決定的なヒントではなく、「こんなふうに考えてみたらどうなるかな?」とか「問題文のこの部分は、どういう意味だろう?」と考えを先に進めさせるためのヒントです。
さすがに、家庭で親が適切なヒントを出すことは難しいと思います。けれども考えるように励ますことはできるはずです。よくがんばっているねとほめてあげて、少し休憩してもいいでしょう。それからまた考える。ヒントは出さなくて構いません。
その代わり子どもに説明を求めてください。問題文を一文ずつたどりながら「これはどういう意味?」「この数字は、何のこと?」と、ごく初歩的なことで構いません。
問いかけが、頭を動かす力になります。そして、頭を動かし続けてさえいれば、必ず考える力はついていきます。早ければ三カ月後、平均で半年後、もしかすると1年ぐらいが必要なこともあるでしょう。
どれだけ時間がかかったとしても、子どもの考える力は、間違いなく養われている。親の信念が子どもを伸ばすのです。