高齢化する「被相続人」と「相続人」
超高齢化の進む日本の人口構造は、相続においても不思議な状況をつくり出しています。やや極端な言い方ですが、例えば20年前は被相続人(亡くなった人)70才、相続人(財産を引き継ぐ人)40才という形で行なわれていた相続が、被相続人90才、相続人60才というようにそれぞれ20才ずつ高齢化していることが増えている、ということです。
そうしたことによってか、次のような特徴が目立ってきました。
●被相続人は、長く生きた分だけ相続財産が増えている
●相続人もすでに「老後」が近づいており、自分の相続についても考えなければならない状況になっている
●相続人やその家族が被相続人に対する介護をした場合、介護の長期化に伴ない、その他の相続人とは、その寄与度が大きく違ってきている。また、相続人以外が介護するケースも多くなっている
●少子化で夫婦間だけでの相続が増えると共に、残った1人が亡くなると相続人が兄弟姉妹になることも多くなっている。また、その場合、後に亡くなったのが夫なのか妻なのかによって、結果的にすべての財産が夫の兄弟にいくか妻の兄弟にいくかの極めて大きな分かれ目が生じている。「代々の家の財産」という考え方は、完全に消滅してしまうのである
●生まれる人より亡くなる人の数の方が年々増えている
●子が先に亡くなり、法定相続人が孫や被相続人の親になるケースも増えるなど相続の構図が複雑になっている
●元々子がないために、支出が少なくお金を沢山残した人ほど、その相続財産が兄弟姉妹に流れることが増えている
●法定相続人がいずに、遺産が国庫に収納されるケースも増えている
●相続人の数が減ってきているため、1人当たり相続する財産が増える一方で、お墓を誰が受け継ぐかが一層大きなテーマとなっている
そして、経済の成長率が大幅に低下していく中で、相続人間での所得格差がなくなり、一様に被相続人の遺産に対しての依存度が高まっています。
土地の分割は「共有」を避けて「単独所有」を基本に
こうしたことを集約して考えると、「相続税をいくら払うか」などより、「相続人及びその家族が将来も良い関係を築いていける相続の形」が何よりも大切であることが明確になっており、そのための権利調整が優先的に問われるのです。
まず初めに、被相続人への長期間の介護があった場合、介護した人が法定相続人であれ、そうではない人であれ、その人に一定の相続(遺贈)をさせる形が必要です。遺言だけでなく、世話をしてくれた人との書面のやりとり「ありがとうシート」のような形を生前に残すことを考えましょう。
そして、その中に遺言を成立させる形式で一定の金額を記入するのです【図表】。正式に遺言を書くこととは違い、贈与のような軽い気持ちで自分の世話をしてくれる人に遺産を渡せると思います。本当は国が相続に関する法律(民法)の中で考えていかねばならないことだと思いますが…。
次に、相続すべき財産を大きく分けると土地と預金(現金)とになりますが、土地の分け方については共有を避け、単独所有になるようにすることがポイントです。単独所有が望ましいと思われる背景には、高齢化と人間関係の希薄化があります。土地を共有にしてしまうと、将来処分することもままならず、資産としての価値は大きく減退します。新たな相続が起こり、知らないもの同士が土地を持ち合うことにでもなればリスクは更に高くなります。
また、相続財産の構成上貯蓄も多いと思われるので、土地を相続する人とお金を相続する人にそれぞれ分けることもできるはずです。もし相続財産に預金がない場合には、土地を相続した人が自分のお金を拠出して他の相続人に支払う、ということも考えておきましょう。それには、代償分割という方法があります。これも、相続人がすでに高齢化していて、ある程度財産が蓄積されている可能性が高いので、考慮したい方法です。
最後は、お墓の問題です。祖先を祭祀し、法要を行い、寺や霊園に一定の手当てを行なっていくことは、それを担う相続人にとって過去の時代と比べ、大きな負担となっています。したがって、親は自分たちの墓の用意や祖先の祭祀について相続人に心配させないように生前に方向づけをしておきたいものです。また、祭祀を担う相続人には一定の相続財産を遺言などで付与しておく、というのも一つの方法となっていくでしょう。
【図表】 ありがとうシート