別居が基本の「非嫡出子」には重大なハンデがある
被相続人の嫡出子でない子供(非嫡出子)、いわゆる婚外子の法的相続分は嫡出子と同等にすべきである、という最高裁判決に基づき、2013年暮れに民法が改正されました。家族とはちがう立場の子も同じ相続分とすることになった理由は国際的な圧力や家族そのものの概念の多様化など、日本における社会構造の変化の結果、という見解があります。しかし、本当に問題なのは夫(子を作った当事者)の気持ちと行動なのです。
元々夫が妻や子を守る立場で財産を確保しようとすれば、妻への贈与を始め家族への名義預金・貸金庫預金など非嫡出子に分からないように財産を移転することはいくらでもできます。元々家族でないという状況、つまり、別居が基本の非嫡出子には重大なハンデがあります。相続時に法定相続分の主張をすることができるといっても、後の祭りということになってしまうわけです。
一方、逆の場合も複雑な動きをします。
夫が家族よりも非嫡出子やその母親を重視し、生前に財産を贈与したとしても妻や子がそれを止めることは難しいようです。法定相続人でない愛人への贈与や遺贈には、相続人は極めて弱い立場です。
法定相続分は争いになった場合に採用される分割の目安
また、遺言に「非嫡出子にすべて財産を相続させる」と明記されれば、非嫡出子は法定相続分を遥かに超える財産を手にすることが出来るわけで、今回の改正で、非嫡出子の立場が劇的に変化したというわけでもないのです。
要するに改正は、能天気な夫が何の準備もせず亡くなった場合に起きる一部の手続について一定の効果があるわけですが、多くの場合は改正による分割を参考にしつつも生前に夫がどう動くかという意味では、今までの権利調整の考えを大きく変えるものではありません。
ところで、そもそも法定相続分という考え方は、争いになった場合に採用される分割の目安であり、元々相続人の間で合意があればどんな分け方をしても全く支障はありません。例えば、非嫡出子であっても相続人であることに変わりはないので、上記の判決にかかわらず、相続人全員の合意で非嫡出子がすべての遺産を相続することも可能でした。
つまり、非嫡出子の法定相続分を嫡出子と同じにするということは、争いがあるからこその取り決め、と言えます。
改正は、非嫡出子の権利が認められたという正面からの事実とともに、非嫡出子を持つ親に幸せな相続になるよう改めて相続財産の行先とそのための権利調整を考えておくように促したという側面を持っています。