日本人の平均寿命は男性が81歳、女性は87歳です。妻の年齢が夫と近い場合、もしくは夫よりも年下の場合、悲しいことに夫のほうが先に亡くなる可能性が高いでしょう。そのようななか、夫の死後、残された妻が受け取れる遺族年金額を事前に把握し、備えておくことが重要になってきます。本記事では影山さん(仮名)の事例とともに、高齢夫婦の遺族年金について、FP事務所MoneySmith代表の吉野裕一氏が解説します。
夫婦で「年金月12万円」、贅沢せず慎ましく暮らしていたが…先に夫が逝った76歳妻が受け取る「衝撃の遺族年金額」。〈まだまだ生きる老後〉に待ち受けた“悲惨すぎる末路”【FPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

妻の年金に「任意加入期間」が…

日本の現在の年金制度が確立されたのは、そう昔のことではありません。

 

現在のように20歳から60歳の国民すべてが国民年金に加入するようになったのは、1986年(昭和61年)4月からです。約40年前と聞くと比較的新しいという印象を筆者は感じます。それは、まだ年金を受け取っていない65歳未満の方も、加入していなかった時期があるかもしれないという点にあります。

 

国民皆保険が施行されたのは、1961年(昭和36年)4月ですが、実は国民皆保険といっても会社員の妻などは、このときから1986年(昭和61年)3月までは、任意加入期間となり、年金制度に加入していない人がいるケースもある期間になります。また、それまでは厚生年金制度だけでしたので、自営業や専業主婦などは年金制度に加入していなかったことになります。

 

影山さんの妻の幸子さんも高校を卒業して家業の手伝いをしていましたが、年金には加入制度がなく、結婚後、任意加入もできましたが、年金制度についての情報も少なかったことで、未加入のままだったということでした。

 

幸子さんが年金制度に加入したのは、1986年4月から。40歳から60歳までの20年間です。任意加入の期間は加入通算期間となり、幸子さんが20歳から40歳までの国民年金の加入期間に含まれ、40年間加入したことにはなっています。

 

しかし、老齢基礎年金額を計算する際には、保険料納付した期間が反映されるため、20年間分のみとなり、2024年度(令和6年度)の老齢基礎年金における満額の480分の240が受給されることになります。つまり、68歳以上であれば年満額81万3,696円の480分の240である40万6,848円(月額3万3,904円)となります。

 

影山さんは老齢厚生年金も受給していましたが、厚生年金に加入していた期間が、1969年から1982年までの13年間で、この期間の標準報酬月額は30万円でした。

 

2003年(平成15年)3月までの平均標準報酬月額の計算式は、

 

標準報酬月額×7.5/1,000×平成15年3月以前の加入月数

 

で算出します。今回のケースでは、

 

30万円×7.5/1,000×156ヵ月=35万1,000円

 

となり、月額では2万9,250円を受け取っていました。老齢基礎年金は、影山さんは会社員になった23歳から60歳までの37年加入していたので、前述した81万3,696円の480分の444である75万2,669円(月額6万2,722円)でした。

 

夫婦合わせると、

 

3万3,904円+2万9,250円+6万2,722円=12万5,876円

 

と決して十分な額とはいえませんが、光熱費と食費と少しの娯楽はできる程度に慎ましく暮らしていました。しかし、夫の影山さんが81歳で誤嚥性肺炎が原因の合併症で亡くなってから、収入は激減します。

 

65歳以上で老齢厚生年金を受け取っていた人が亡くなった場合で、遺族厚生年金を受け取る権利がある場合は、老齢厚生年金の額の4分の3を遺族厚生年金として受け取ることができます。今回の場合は、影山さんは老齢厚生年金の月額2万9,250円を受け取っていたので、この4分の3にあたる2万1,938円を遺族厚生年金として妻の幸子さんが受け取ることになります。

 

老齢基礎年金は本人しか受け取れないので、年金額は2万1,938円と幸子さんの老齢基礎年金の3万3,904円の5万5,842円となってしまいました。