夫婦2人で受け取る年金は、夫と妻のそれぞれの老齢基礎年金と老齢厚生年金をあわせてもらえるため、ある程度の金額になります。しかし、どちらかが先立った場合には、亡くなったほうの老齢基礎年金は受給できなくなり、老齢厚生年金は老齢遺族年金として受け取れますが、金額は少なくなってしまいます。本記事では、杉本さん(仮名)の事例とともに、老後の年金について、FP事務所MoneySmith代表の吉野裕一氏が解説します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
「入居金1,000万円・月額32万円」老人ホームに仲良く入居の夫婦…「年金月17万円」の73歳夫が風呂場で急死、動転の同い年妻。強制退去不可避の「まさかの遺族年金額」に49歳長男がとった最終手段【FPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

地方に住む親が終活で決めた「老人ホーム入居」

今回相談を受けたのは、私立の大学に通う子どもが2人いる49歳の杉本さん(仮名)でした。故郷に残した両親は、杉本さんから見ても本当に仲のよい夫婦でした。ところが昨年、73歳の父親を亡くしたことにより、父と同い年の母親が思わぬ事態となっているとのこと。

 

父と入居した老人ホームにひとり取り残された母

杉本さんの両親は、70歳を前に自宅も古くなったし、自分たちの健康にも不安を感じていたことから、夫婦で住宅型有料老人ホームに入ることにしました。当時は夫婦とも年齢の割には比較的健康でしたが、体の衰えも感じていることや、物忘れが増えたとお互いに自覚があり、いまの状況でも入居できるところで、将来の介護などのことも対応できるところを考えて、住宅型有料老人ホームに決めます。

 

入居時は夫婦2人で入れる部屋を選び、月額利用料金は32万円。両親の年金月額収入は、父親が17万円で、母親も正社員として働いていた時期が長かったということもあり13万円。あわせて30万円ですが、社会保険料や源泉徴収されて振り込まれる金額は、26万円です。不足する6万円は、自宅を売却して諸々の経費を払ったあとに手元に残った500万円から支払っていく予定にしました。

 

入居後、妻は新しい環境にとまどっていましたが、少しミーハーな一面があり積極的にほかの入居者ともコミュニケーションをとる父の人柄に引っ張られるように、2人とも楽しく生活を送ることができていたようです。しかし、元気だった父親が昨年に亡くなってしまいます。風呂場で心臓発作を起こしたことによる突然死でした。

 

コロナ明けのタイミングで、家族葬が多くなってきていることもあり、杉本さんも家族葬を選び、ひっそりと葬儀を挙げました。葬儀代などは、遺産で賄ったそうですが、家族葬にしたことで、香典も少なく、実費は100万円程度と父の最期といえど、大学生の子ども2人を抱える杉本さんにとっては痛い出費となりました。また、墓がなかったので、霊園に永代供養をお願いし、今後の母親のこともあり、2人用の墓を建てたため、こちらの費用は50万円程度かかりました。

 

遺産分割は母親と杉本さんの2人だけだったので、母親の今後のことも考えて、全額渡したいという思いもありましたが、杉本さんは家族を養う立場であることから、遺留分だけを受け取ることにしたそうです。遺留分とは、遺言などで特定の人に全額相続させるという内容であっても、相続人が最低受け取れる権利で、法定相続分の2分の1となります(相続人が直系尊属だけのときは3分の1)。