夫に先立たれた自営業の妻、貧困老後へ
夫婦で書店を営んでいた大谷澄江(仮名)さんは、69歳のときに7歳年上のご主人を亡くされ、ひとり暮らしをしていました。
子どもには恵まれなかったのですが、ご主人がご存命のころは非常に仲のよい夫婦だったそうです。現役時代もリタイアしてからも、お金に余裕があるというわけではありませんでしたが、料理好きだったご主人の凝った料理を一緒に食べ、年に数回は温泉旅行へ行くこともできていました。2人の共通の趣味である読書はゆったりと時が過ぎていくのを感じられるような、かけがえのない時間だったそうです。
大谷さんの年金事情
夫婦ともに、会社員として働いた期間はなく、国民年金に加入していました。しかし、収入が少なかった時代に年金を未納していた時期があり、6万4,000円ずつ夫婦2人で12万8,000円の老齢基礎年金を受け取っていました。
自営業の老後の年金は少ないと聞いていたので、さらに民間の個人年金にも入っていました。10年確定のものだったので、65歳から74歳までの10年間は毎年120万円を受け取ることができていました。ご主人が亡くなってからも個人年金も受け取っていたのですが、昨年、74歳になって個人年金の受け取りはなくなり、老齢基礎年金だけの収入となったそうです。
大谷さんは、収入が公的年金だけになった70歳以降は、夫婦2人のころの収入約13万円と個人年金の月10万円を足し合わせた23万円あったころに比べ、老齢基礎年金と個人年金と合わせて16万4,000円となりました。
74歳からは個人年金の受け取りもなくなることから、生活費もできる限り節約を心がけいました。しかし、最近の物価上昇や光熱費の上昇によって、厳しい生活を余儀なくされます。
冬は暖房を、夏はクーラーをなるべく使わないようにしていました。特に削ったのは食費です。年金支給日になると、近くの業務スーパーへ徒歩で向かい、1食29円の冷凍うどんを大量買い。これが非常に重たくて高齢者の身体には堪えます。初めのころは夫が残してくれたうどんのアレンジレシピを参考になんとか食にも楽しみを持たせていましたが、次第に「こんなことをしてなにになるのか……」そんな気持ちが押し寄せてくるようになりました。アレンジをやめ、段々と解凍したうどんにめんつゆをかけただけの素うどんしか食べないようになりました。お金の不安から精神的にも病んでいくのが自分でもわかったそうです。
ただ時がすぎてゆくだけ、そんな暮らしとなって久しいある年の9月初旬。日本年金機構から緑色の封筒が届きます。封を開けた大谷さんは思わず涙を流します。その封書のなかには、「年金生活者支援給付金請求手続きのご案内」と書かれた書類と返信用のはがきが入っていたのです。