「会社による自己株式の取得」という方法
経営者や後継者個人で分散した株式を買い集めようとするとき、株式の買取り価格が高ければ多額の現金が必要になり、資力がなければ実現しません。そこで会社が、会社の資金で分散している株式を買い戻すことで、個人の資金を拠出することなく、持ち株比率をコントロールできます。
発行された株式を会社が買い戻すことを「自己株式の取得」といいます。それによって自社で保有される株のことを「金庫株」と呼びます。
たとえば、図表のように3000株を発行している会社であれば、株主A、B以外の分散した株式1050株を会社で買い戻すことで、結果的に株主A、Bの株式シェア率を高めることができます。買い取った株式は、会社の保有期間中はその分の議決権の効力がなくなるため、後継者の持つ株式の議決権割合が高まります。
会社による自己株式取得はメリットが多いように思えますが、際限なく自社株を買い取ることができるわけではありません。資力のない会社がどんどん自社株を買い取っていくと、資金が流出し(財産的基礎を損ない)、会社債権者(債権を持つ金融機関や取引先)が不測の損害を負いかねません。
また、一部の株主のみから株式を優先的に買い取る場合や、取得価格によっては株主平等原則にも反します。そこで会社法では、会社が自社株を株主から買い取るときに「財源規制」「手続き規制」を設けています。
規制に違反して自己株式の取得が行われた場合には,会社の利害関係者すべてに悪影響が及ぶことになりかねないため、規制に違反する自己株式取得は原則として「無効」とされています。財源規制に応じた自社株買取りを行わなくてはなりません。会社が自己株式を取得するときには株主に金銭等を交付することになり、これは実質的に出資を払い戻すのと同様であり、会社の財産的基礎を損なうことになります。そこで財源規制が行われるわけです。
買取り時点の「分配可能額(剰余金の額-自己株式の帳簿価額)の範囲内」でしか、会社は自社株を買い取ることはできません。
手続き規制は、「株主を特定しないで取得する場合」と「株主を特定して取得する場合」に分かれますが、後者のほうが厳格な手続きが必要となります。