(※写真はイメージです/PIXTA)

超高齢社会の日本では、老後の資金不安を軽減させたいという考えから、年金の受給開始時期を後ろ倒しにして受給額を増やす「繰下げ受給」が注目されがちです。しかし、なかには受給額を減らしてでも「繰上げ受給」を選択する人も。いったいどちらを選択すべきなのか、老後の暮らしに悩むAさんの事例をとおして、株式会社よこはまライフプランニング代表取締役の井内義典CFPが解説します。

筆者が警告する「年金繰上げ受給」のデメリット

1.「障害年金」が受け取れない

年金を繰上げ受給すると、年金が減額され、その減額が生涯続くことはAさんも把握していますが、病気にかかったときやケガで障害がのこったときに請求できる「障害年金」も受給できなくなることが多いため注意が必要です。

 

障害年金の額が繰上げをした老齢年金の額より高いケースもよくあり、老齢年金より多い障害年金は受給できないことになります。

 

2.遺族厚生年金と併給することはできない

また、厚生年金に加入していた期間のある配偶者が亡くなると、遺族厚生年金の受給権が発生します。妻Bさんは結婚前は会社員でしたから、厚生年金の加入期間があります。

 

そのため、もしBさんが亡くなると、Aさんに遺族厚生年金の受給権が発生し、65歳までは当該遺族厚生年金を受給することもできますが、この「遺族厚生年金」と「繰り上げた老齢年金」は、片方しか受け取ることができません

 

したがって、仮にAさんが65歳になるまでにBさんが亡くなった場合、いずれかを選択して受給することになります。

 

Bさんは厚生年金の加入期間が短いため、この場合Aさんは「繰り上げた老齢年金」を選択することになると思われますが、繰上げしていなければ65歳まで受給できたはずの遺族厚生年金はまったく受け取れないことになります。

 

3.勤務継続でも、退職でも…繰り上げた年金が「減る」または「止まる」

Aさんは60歳の定年以降も働く予定ですが、たとえ在職中でも、給与が下がることによって、雇用保険の「高年齢雇用継続給付」を受けられることになりそうです。しかし、この給付を受けると、繰り上げた老齢厚生年金の一部が調整されることになります。

 

さらに、もしAさんが65歳より前に退職して「雇用保険の基本手当(失業給付)」を受けると、その65歳までの受給期間中、繰り上げた老齢厚生年金は支給停止となります。

 

このように、繰上げ受給後の障害、配偶者の死亡、失業などのリスクについても考慮しないと、老齢年金自体の減額どころか、他に受け取れるはずのお金まで受け取れないことになります。

 

当然のことながら、一度繰上げ請求を行うと、あとから取り消すことはできません。以上のことから、繰上げ受給については慎重に判断する必要があります。

 

 

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※個人情報保護のため、登場人物の情報は一部変更しています。

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