(※写真はイメージです/PIXTA)

マネジャーの負荷を軽減しつつチームで成果を上げていくには、自分と他者の心身の「観察」が役立ちます。観察は一見難しく思われますが、自律神経の学説「ポリヴェーガル理論」を活用すれば、想像以上に容易であるといいます。そもそもポリヴェーガル理論とは何か、どのようなことがわかるのか。白井剛司氏の著書『部下との対話が上手なマネジャーは観察から始める』(八谷隆之氏・吉里恒昭氏監修、日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、見ていきましょう。

こうも多忙ではマネジメントできない…限界マネジャーの1日

本連載では、本書のメインテーマである、自己と他者の「観察」の全体像をお伝えします。その前にまずは、とあるマネジャーAさんの1日の流れを見てみましょう(図表1)。各行の文末に[ ]で漢字が記載されていますが、そちらはいったん無視して読んでみてください。

 

[図表1]マネジャーAさんのある1日

 

このようなスケジュール、いかがでしょうか? 「そうそう、毎日このような感じ」「自分のほうが忙しい」、「ピークのときは同じ」など、いろいろな感想があると思います。

 

では、この流れの中で、Aさんの身体と心はどんな状態にあると思われるでしょうか?

 

●疲れている

●心から休まる休憩時間がなさそう

●緊張している時間が長い

などでしょうか。

 

さらにお聞きします。マネジャーAさんは、こういった状況に自覚的でしょうか?

 

●自覚的だ

●自覚的ではない

●薄々自覚しているが、自覚したところで辛いだけだ…

 

など、さまざまな意見がありそうですね。とにかく、この状況が続くことで、マネジメントの精度は下がりそうですし、心身の健康も脅かされそうです。

 

本書第1章で述べたとおり、「マネジメント:プレイヤー」の比率が非常に高くなっているマネジャーも少なくありません。その状況を、自己と他者の観察と調整によって変化させていくこと、観察に基づいた対話を重ねることによってメンバーとの協働が円滑になり、状況を好転させる方法をお伝えしていくことが、本書の一番大切なメッセージです。

 

それでは、自己と他者の観察の方法について概観しましょう。本書では、自律神経系の学説「ポリヴェーガル理論」を参照して観察を行います。

「ポリヴェーガル理論」とは?

■自律神経の状態を3つ(アクセル/急ブレーキ/緩やかなブレーキ)に整理したもの

多くのビジネスパーソンは、新入社員の頃から、「客観的に」「頭(思考)を使って」物事や1日を振り返ることを教わります。しかし、本書では「主観的に」「身体と心を観察」して振り返ることをお勧めします。

 

「身体と心を観察する」うえで大事になるのが、自律神経です。自律神経は、身体に張りめぐらされたネットワークであり、意志とは無関係に働き体内をベストな状態に保ち続ける神経全体の総称です。この自律神経の作用や反応に対して意識的、自覚的であることが、「主観的に身体を観察する」ということになります。日常生活において、「身体を意識する」「身体感覚を感じる」経験、時間を増やすことがそのスタートです。

 

自律神経系に関する学説で、「ポリヴェーガル理論」というものがあります。「ポリヴェーガル」とは「poly 多重+vagal 迷走神経」の意味であり、米国の神経生理学者のスティーブン・ポージェス博士によって1994年に提唱されました。自律神経には大きく分けて3種あり、その3つがバランスよく発達していることが望ましいとされます。この理論はトラウマケアなどに使われており、身体を扱う専門家、セラピスト、臨床心理学者などが参照し、組織開発やコーチングなどに携わるビジネス分野の実務家たちにも注目され始めています。本書では、難解と言われるこの理論を平易に紹介します。特に、実際にビジネスシーンで活用できるよう、実践的に学べる内容に翻訳しています(※1)

 

(※1)心療内科で臨床心理士・作業療法士として活動する株式会社D・M・Wの吉里恒昭氏・八谷隆之氏が、専門的な視点、日常生活への応用に関する臨床的な視点で監修している。

 

■ポリヴェーガル理論による新たな発見 ~自律神経の「ブレーキ機能」は2種類ある

ポリヴェーガル理論について、もう少し説明しておきましょう。この理論が提唱される以前まで、自律神経について一般的に理解されてきたことには以下が挙げられます。

 

●自律神経は全身のほとんどの器官を支配していて、意識ではコントロールできない

●自律神経には、「交感神経」と「副交感神経」の2つがある

●生命の危機に瀕した際、交感神経が優位になって、身体が自ら身を守る状態になる

●副交感神経が優位になることで、健康・成長・休息や回復をサポートする

●多くの場合、交感神経は「アクセル」、副交感神経は「ブレーキ」の働きをする

●交感神経優位の状態が慢性的に続くと、不調の原因になる

 

特に、「アクセル」、「ブレーキ」という2つの機能について、なんとなく聞いたことがあるのではないでしょうか。

 

ポリヴェーガル理論は、これらの考え方に対して新たな発見を加えました。それは、「副交感神経には2つの神経の領域と働きがある」(※2)ということです。2つとは「防衛反応を抑制する(急ブレーキ)反応」と「社会的な関わりを築き維持する(緩やかなブレーキ)反応」があるということです(図表2)。それ以前は、単に「ブレーキ」とだけ理解されてきましたが、この考え方を塗り替えるものです。

 

出所:白井剛司著『部下との対話が上手なマネジャーは観察から始める』(八谷隆之氏・吉里恒昭氏監修、日本能率協会マネジメントセンター)
[図表2]従来の自律神経理論とポリヴェーガル理論の違い 出所:白井剛司著『部下との対話が上手なマネジャーは観察から始める』(八谷隆之氏・吉里恒昭氏監修、日本能率協会マネジメントセンター)

 

自律神経には3つの状態、つまり「アクセル」「急ブレーキ」「緩やかなブレーキ」があると整理されたことで、たとえば身の危険を感じる瞬間にも関わらず身体が固まって動けない現象が医学的に説明されるようになりました。もちろん、ビジネス現場の瞬間瞬間に起こる出来事や、自分や他者のマネジメントを推し進める上でも非常に有効な捉え方で、本書で提案する「観察」とは、自分や他者がこの3つの状態のうち、どの状態にあるかを観察し、その状態を受け入れることです。

 

(※2)ポージェス博士は、迷走神経(ヴェーガル)を2種類の機能に分類・整理した。迷走神経は副交感神経の約8割を占めている神経である。本書ではわかりやすさを重視するために便宜的に「副交感神経を2つに分けた」と表記する。

3つの状態を「赤・青・緑」に置き換えて説明すると…

自律神経の働きを3つに整理したポリヴェーガル理論は、幅広い領域の実践者から注目を集めていますが、一方で難解といわれています。そこで本書では、公認心理師の四葉さわこ氏が考案された、3つのモードをシンプルに赤・青・緑の3色で表す方法を紹介します。本稿ではこれら3色について簡単に触れ、次回以降で詳細に解説していきます。

 

出所:白井剛司著『部下との対話が上手なマネジャーは観察から始める』(八谷隆之氏・吉里恒昭氏監修、日本能率協会マネジメントセンター)
[図表3]ポリヴェーガル理論 身体の3色のモード 出所:白井剛司著『部下との対話が上手なマネジャーは観察から始める』(八谷隆之氏・吉里恒昭氏監修、日本能率協会マネジメントセンター)

 

出所:白井剛司著『部下との対話が上手なマネジャーは観察から始める』(八谷隆之氏・吉里恒昭氏監修、日本能率協会マネジメントセンター)
[図表4]3色のモードと入れ替わり 出所:白井剛司著『部下との対話が上手なマネジャーは観察から始める』(八谷隆之氏・吉里恒昭氏監修、日本能率協会マネジメントセンター)

 

①赤のモード(アクセル:闘う/逃げる)

最初のモードは、交感神経の領域です。危険な相手や状況に遭遇したとき、私たちの身体は意識せずとも「闘う身体」、あるいは「逃げる身体」になります。この状態を本書では「赤のモード」と呼びます。赤はアクティブ、闘争心、達成感など活発なイメージのある色です。身体が活発になって呼吸や血流が早まる興奮した状態です。

 

威嚇する猫の様子を思い出してください。何か脅威を目の前にした猫は、毛と爪を立て、相手を睨みつけて凝視します。すべての注意が脅威に注がれていて戦闘態勢。このような「過覚醒」の状態を、本書では赤で表します。呼吸が浅くて心拍数が高い状態です。全身に緊張感や力みがあることが多く、勝算があるとみなせば攻撃しますし、自分のほうが不利とみなせば対決を回避すべく、逃げることを選択します。

 

赤のモードはこのように、危険な状況に対応した状態で、身体に力が入って血流も多く、エネルギーを非常に消費する状態といえます。どのようにでもすぐに動ける状態ですが、長くは続きません。長く続けば体力を消耗し、疲れやストレスによってダウンする状態に移行します。この「ダウンする」という状態が、次に紹介する「青のモード」です。

 

②青のモード(急ブレーキ:固まる/動けなくなる)

2番目のモードは、副交感神経の“背側”迷走神経複合体が働いた状態です。自分にはどうにもならないくらいの脅威(敵や状況)に遭遇したときに、意識とは別に、固まって静止し、まるで死んだような状態になります。この状態を本書では「青のモード」と呼びます。青は静か、鎮静など動きのないイメージを持つ色です。

 

猫でいえば、激しく驚いた状態で、部屋や通路の隅に身を隠したりしていることでしょう。瞳孔が閉じて黒目は見えないか小さくなり、まったく動かずぴたっと止まっています。思考も止まっていて、意識は外に対する注意から反転して、内側に向いています。エネルギーは省エネ状態。このような「低覚醒」の状態を、青で表します。小さく浅い呼吸になり、筋肉の緊張は緩んで、力なく存在します。

 

多くの野生動物が「死んだふり」をしますが、死んだような状態は敵からは狙われにくく、生存確率が高まるからだといいます。「固まる/動けなくなる」モードは、生命の本能に根ざした、生き延びるための戦略といえるのです。

 

③緑のモード(緩やかなブレーキ:安心する/つながる)

3番目は、副交感神経のもう1つの領域、“腹側”迷走神経複合体が働いた状態で、仲間や自然とつながるためのモードです。これも猫を想像しましょう。飼い主が猫を膝の上で撫でると、猫は気持ち良さそうな顔をして、全身の力を抜いてくつろぎます。呼吸もゆったりとして柔らかく、身を委ねて、ゴロゴロと喉を鳴らしていることでしょう。飼い主もつい長時間、撫で続けてしまうような、心地よい状態です。こうした際の身体の状態を、本書では「緑のモード」と呼びます。緑は調和、安全、落ち着き、ポジティブさなどのイメージを持つ色です。

 

緑のモードは、進化の過程において哺乳類以降の生物に備わった性質です。哺乳類は群れをなして集団で命を守り、生き延びていくのです。そのために、「安心」「安全」「一体感」などを仲間同士で「表情」「声」「身体のぬくもりや心拍数」などで身体的に示し合って形成していきます。

モードは一瞬のうちに移り変わる

身体の3色のモードの、大体のイメージはつかんでいただけたのではと思います。ここでもう一度、記事冒頭で紹介したあるマネジャーAさんの1日を見てください。各行の最後の[赤][青][緑]は、瞬間瞬間で移り変わる身体の3色のモードの入れ替わりを表したものでした。[緑]+[赤]、[緑]+[青]など2つの組み合わせのような表記もありますが、これは応用編です。ここでは1色ずつに着目して、各シーンと身体の状態を想像してみてください。自分の日常と近いシーンが想像しやすいでしょう。

 

[図表1]マネジャーAさんのある1日(再掲)

今、部下は何色モード?マネジメントは「観察」からはじめる

赤・青・緑のモードについて、概要を説明しました。まず、自分が今、何色のモードになっているかに気づき、自覚的になることが大切です。3色のモードに整理されていることが、心身の状態を理解するうえで、心強い助けになります。自分のモードの観察を習慣化し、意識すればするほどに、感じる精度も高まっていきます。メンバーなどの他者の状態も、この3色のモードに照らし合わせて観察すると理解しやすくなったり、共感しやすくなっていきます。

 

次回は、身体感覚・思考・感情をどのように観察するのか?について見ていきましょう。

 

 

【著者】白井 剛司

株式会社ロッカン 代表

IMA MBSR(マインドフルネスストレス低減法)認定講師

Transform LLC. セルフマネジメント認定講師

 

【監修】

八谷 隆之 株式会社D・M・W 代表、作業療法士

吉里 恒昭 株式会社D・M・W 理事、臨床心理士

 

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※本連載は、白井剛司氏の著書『部下との対話が上手なマネジャーは観察から始める』(八谷隆之氏・吉里恒昭氏監修、日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋・再編集したものです。

部下との対話が上手なマネジャーは観察から始める

部下との対話が上手なマネジャーは観察から始める

白井 剛司(著)
八谷 隆之(監)
吉里 恒昭(監)

日本能率協会マネジメントセンター

業績目標達成や部下育成に加えて、リモートワークでのマネジメント、ウェルビーイング、エンゲージメント向上等々…。現代のマネジャーは、一昔前のマネジャーよりも対応すべきイシューが多く、かつてないほどに忙しい状況に追…

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