「お金のことは言うな」という日本人
山下さんだけではなく、1970年代から1990年代にかけて日本は高度成長期で、お金のことは気にせず、働いていれば収入も増え、年金もある程度受け取れるという考えがありました。実際に、その当時は物価も上昇していましたが、物価以上に収入が増えたことや、住宅ローンを借りられるだけ借りても収入が増えることで家族が増えても負担が少なくなっていた時代でした。
山下さんは、会社に入った当初は年収が300万円程度だったものの、年齢とともに順調に収入が増え、定年前には年収1,000万円(給与年800万円、賞与年200万円)となり、お金の心配をすることはなかったそうです。
山下さんの月の生活費は、夫婦の自由になるお金を除いても35万円です。
加えて、趣味である家庭菜園にお金をかけていたということでした。家庭菜園といっても自宅の庭の一角で野菜を育てる程度ではなく、民営のレンタル農園で畑を借り、無農薬、無化学肥料でこだわりの野菜を育てていました。昔から土いじりが好きだったため、趣味として始めた畑でしたが、土や農作業グッズにこだわっていたことで、毎月それなりの出費となっていました。
山下さんは退職して、せっかく畑の時間がたくさん取れるようになったのだから趣味を大切にして楽しく過ごそうと気楽に考えていました。
現役時代の生活水準はすぐには落とせない
それから5年、山下さんは、定年退職後も収入がないにも関わらず、生活水準がほとんど落ちていませんでした。結果、公的年金を受け取る65歳になったときには、貯蓄も大半を使い切ってしまっていました。貯蓄がなくても年金でなんとかなると、考えていたのです。
年金受給額の計算方法
老齢基礎年金は、加入月数に応じて年金額が決まりますが、老齢厚生年金は、収入に応じて年金額が計算されます。
しかし、実際に受け取った額で計算されるのではなく、年間の給与を12で割った報酬月額を32段階にわけ、標準報酬月額で計算されます。ちなみに山下さんが会社員時代に受け取っていた手取り額は、社会保険料や所得税などが引かれた、月額は54万円、賞与は140万円でした。収入は年齢によっても変わっていきますので、総期間の平均した額を基に老齢厚生年金額が計算されます。
山下さんの場合、55歳を過ぎてからの年収1,000万円でしたが、全期間で計算すると、厚生老齢年金の計算となる平均標準報酬額は50万でした。50万円は、32段階中27番目です。
2003年3月までは賞与が含まれない平均標準報酬月額で老齢厚生年金額を計算していましたが、今回は、2003年4月以降の賞与も含めた計算方法で試算してみます。
上記により、月額では10万4,139円を受け取ることができます。さらに老齢基礎年金の令和5年度の満額の79万5,000円、月額6万6,250円が受け取れ、合わせて17万389円です。
月に17万円では圧倒的に生活費が足りておらず、山下さんは絶望します。
「まだまだ先は長いのにこれからは毎月17万円で暮らしていかなければならないなんて……。これじゃあ生きていけないよ」