ひとり暮らしの父が決めた老人ホームへの入所
地方都市に住んでいる土井さんは、6年前の76歳のときに妻が先立ち、ひとり暮らしをしていました。あまり自炊をしたことがなかったので、ひとりになってからは、コンビニやスーパーの総菜を購入して食事をしていました。
子どもは、2人の娘がいますが、どちらも嫁いで別々に暮らしていました。54歳の長女は同じ県内に住んでいましたが、車で2時間弱かかります。そう頻繁には行けなくても、昔から温厚で面倒見のよい長女は、ひとりになった父を心配して、盆や年末のほか、年に2~3回程度顔を見せていました。
80歳を超え、ひとり暮らしはそろそろ限界に
82歳となった土井さんは、年齢による体の衰えはあったものの、元気に暮らしていました。ただやはり、年を重ねるたびにひとりでの食事や家の掃除、庭の手入れなどを負担に感じるようになっていきます。
土井さんは、現役時代には一般的な生活を送れていました。裕福とはいえませんが、貯蓄は1,200万円、現在の年金は月に17万円と、生活に困ることはありませんでした。
長女は以前に、土井さんから「そろそろひとり暮らしは限界かもしれない。老人ホームに入ることも考えている」と相談を受けていました。長女は早速数ヵ所の老人ホームのパンフレットを取り寄せ、土井さんに渡します。長女も、父が広い家にひとりでいるより、老人ホームに入ってくれたほうが安心すると考えてはいたものの、父と一緒にパンフレットを見ながら「思っていたよりもお金がかかるものなのね……」と心配します。
しかし、土井さんは月額の住居費が20万円の施設のパンフレットをひとつ指さし、「これくらいだったら予算内。お金のことは心配ないよ」と笑顔を浮かべます。
それからしばらくして、土井さんは長女へ連絡を入れ、老人ホームへの入所を決めたことを伝えました。