登場人物
あんみつ先生(45歳)…司法書士。都内の会社を退職し、実家のある田舎町にUターン。司法書士事務所を開業し、おもに相続と成年後見を中心に業務をしている。また、副業で終活セミナーの講師もしている。
吉田小春さん(65歳)…専業主婦。あんみつ先生のご近所さん。子供2人はすでに独立し、現在は夫と気ままな2人暮らし。
吉田健二さん(70歳)…小春さんの夫。長年勤めた会社を定年退職し、家で趣味を楽しみ、のんびり暮らしている。
パソコンやスマホのデータを整理する「デジタル終活」
先生 私たちのパソコンやスマホの中には、大事なデータがたくさん入っています。だから、亡くなる前にきちんと片付けておきたいですよね。
吉田 自分のプライバシーに関わることがたくさん入っています。スマホもパソコンも、できれば墓場に持っていきたい。
小春 あら、夫のデジタル終活、ちょっと気になるわ…。
デジタル終活とは、デジタルデータを生前整理することです。パソコンやスマホの中のデータを整理せずに亡くなると、大きなトラブルにつながるケースもあり、デジタル終活は非常に重要な終活の1つです。いまの60代、70代の方々はパソコンやスマホを上手に使いこなしているので、デジタル終活も必須です。
デジタル終活をしておくべきデータは非常にたくさんあります。たとえば、パソコンやスマホの中の写真などのデータのほかに、ブログやフェイスブックなどSNSのデータ、会員登録して課金されているWEBサイト、ネットバンキングやネット証券の口座などです。
ほとんどの人は、パソコンやスマホ内のデータが同期されるなどしてクラウド上にもありますが、亡くなったあとにクラウドのデータがどうなるのか考えている人は意外と少ないかもしれません。
デジタルデータはどのように相続される?
先生 たとえばダンナさんが交通事故で亡くなったとします。スマホには普段のLINEの会話、記念写真、連絡先など様々な個人情報が入っています。自宅のパソコンには、仕事の重要文書が入っています。この場合、スマホ、パソコンのデジタルデータは一体どうなるのでしょう?
小春 奥さんが処分するのかしら?
吉田 データは相続人のものになるから、そうなるでしょうね。
先生 そもそもデジタルデータは相続されるのでしょうか?
吉田 どうなんだろう。単なるデータも相続財産に入るのかな?
先生 そこ、ちょっと考えてしまいますよね。
小春 さて、どうなのかしら?
デジタルデータの相続は、保存されているハードやデバイス、つまり機械自体を基準に考えます。パソコン内のデータを相続したと考えるのではなく、パソコンの現物を相続したと考えます。亡くなった人のパソコンは相続財産の1つですが、相続財産は遺産分割をするまで共同相続人の共有の状態です。その中身のデータは、パソコンという遺品の内容物とみなされます。
では、クラウド上のデータやSNSのデータはどうなるでしょうか。これらのデータは、クラウドやSNSを運営管理する企業がデバイス(機械)を持っており、デバイスについては相続の対象とはなりません。この場合、相続が問題となるのは、データに対してアクセスする権利、あるいはアカウントの権利などです。
業者と契約した人は契約に基づき、データに対するアクセスの権利を持っています。ところがこの権利は、本人が亡くなると相続されません。なぜなら、アクセスの権利は本人だけの使用を想定して与えられた権利であり、他の人に移すことが適切ではない権利だからです(「一身専属権」)。
このように、被相続人の権利はすべて相続人に引き継がれるわけではなく、相続されない権利もあります。一身専属権は、たとえば年金がわかりやすい例です。親が亡くなったら子供が年金受給できるというのではおかしな話です。