(※写真はイメージです/PIXTA)

人生100年時代、年金だけでは心もとない中で、老後のお金にまつわる常識が大きく変わりました。そのため、定年前後で判断しなければならないお金の選択が、これまで以上に老後生活を大きく左右するようになってきています。本稿では、森田悦子氏の著書『定年前後のお金の選択』(青春出版社)より一部を抜粋し、「知っている人だけが得をする選択」をQ&A形式で紹介します。

Q. 配偶者に先立たれても遺族年金があるから大丈夫…は本当?

⇒A. 残された側の年金は大きく減るので注意しましょう。

 

故人の年金は一定の要件を満たした遺族に遺族年金として支払われます。ただ、それで十分な額かといえば、そうとはいえません。遺族厚生年金は故人が生前に受け取るはずだった老齢厚生年金の4分の3の額ですが、ここには1階部分である老齢基礎年金は含まれません。亡くなった人の年金の4分の3の額を受け取れると誤解する人も多いのですが、実際はもっと少ないのです。

夫婦ともに老齢厚生年金を受け取れる場合は、計算が複雑に

たとえば、65歳で亡くなった夫の老齢厚生年金が10万円、老齢基礎年金が6.5万円だった場合で、同い年の妻がずっと専業主婦である場合、妻が受け取る遺族厚生年金は7.5万円です。これを自分の老齢基礎年金に上乗せして受給します(図表)。夫の基礎年金部分にあたる遺族基礎年金は、子が成人している場合などは対象外です。

 

出所:森田悦子著『定年前後のお金の選択』(青春出版社)
【図表】遺族年金の例 出所:森田悦子著『定年前後のお金の選択』(青春出版社)

 

夫婦ともに会社員や公務員の経験があって老齢厚生年金を受け取れる場合は、計算が少し複雑です。残された妻はまず自分の年金を受給し、「死亡した夫の老齢厚生年金の4分の3の額」と「死亡した夫の老齢厚生年金の2分の1の額と、自身の老齢厚生年金の2分の1の額を合算した額」を比較し、高いほうが遺族厚生年金の額となります。

 

自分の老齢厚生年金よりも遺族厚生年金が高い場合は、差額のみを遺族厚生年金として受け取るわけです。自分の老齢厚生年金のほうが遺族厚生年金より多い場合は、遺族厚生年金は受け取れません。

 

いずれの場合でも、生前に比べれば世帯として受け取る額は大きく減ります。一人になれば二人暮らしのときよりも生活コストは減りますが、遺族年金の範囲内で収められるよう家計をスリム化することが求められます。

夫婦ともに「老齢厚生年金なし」だと生活に困るリスク大

一般的に女性のほうが長生きする確率は高いので、女性は自分の老齢基礎年金だけでも繰り下げて自身の年金を増やしておくのが安心です。ちなみに、亡くなった夫が老齢厚生年金を繰り下げて受給額が増えていたとしても、遺族厚生年金は本来の額で計算されます。繰り下げの待機中に亡くなった場合は、生計を同じくしていた遺族には過去分の年金(本来額)が一括して未支給年金として支払われます。ただし、請求した時点から5年以上前の年金は時効により受け取れないため、70歳を超えて待機していた場合は全額を受け取ることができなくなります。

 

ちなみに、亡くなった夫が自営業者で厚生年金に加入していない場合、当然ながら妻は遺族厚生年金を受け取ることはできません。1階部分にあたる遺族基礎年金は18歳になる年の年度末までの子がいれば子の人数に応じた額を受け取れますが、18歳の年度末で支給は停止します。子がいない場合や、いても成人している場合は遺族年金を受け取れないことになります。残された側が妻である場合のみ「寡婦年金」が支給されますが、妻が60歳から65歳までの期間に限られます。

 

このため、夫が自営業者で妻も同様に自営業者か専業主婦で2階部分の年金を持っていない場合、大黒柱の夫に先立たれると生活に困窮する恐れがあります。こうしたケースでは、妻は自分の年金を増やす対策をとるか、老後資金の準備、生命保険などで備えておく必要があるでしょう。

 

ちなみに、遺族年金は男女間の受給のしくみが公平でないことが問題視されていますが、本稿で説明している遺族厚生年金の事例(夫婦ともに65歳以上、18歳未満の子がいない場合)では男女差はなく、妻が先立つ場合を想定する際には単純に夫と妻を入れ替えて考えてかまいません。

 

<ポイント>

●遺族年金の計算には繰り下げ増額は反映されない

●自営業者のパートナーが亡くなった場合の遺族年金は心もとない

 

 

森田 悦子

日本FP協会認定AFP(ファイナンシャルプランナー)

 

石川県生まれ。金沢大学法学部を卒業後、地方新聞記者、編集プロダクションを経て独立。主な執筆分野は資産運用、年金、社会保障、金融経済、ビジネス。新聞、雑誌、ウェブメディアなどで取材記事やインタビュー、コラム、ルポルタージュを寄稿。共著に『NISA&つみたてNISAで何を買っていますか?』、『500円で入門 今からはじめる株投資』(以上、standards)など。

 

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※本連載は、森田悦子氏の著書『定年前後のお金の選択』(青春出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。
※本稿の内容は、書籍執筆時点(2023年10月時点)の情報に基づいています。本稿で紹介した情報によって生じた損失等については、著者・出版社ともいかなる責任も負いかねます。投資の最終決定は自己責任で行うようにしてください。

定年前後のお金の選択

定年前後のお金の選択

森田 悦子

青春出版社

【その選択が、定年後の生活を大きく左右する!】 人生100年時代、年金だけでは心もとない中で、老後のお金常識が大きく変わりました。そのため、定年前後で判断しなければならないお金の選択が、これまで以上に老後生活を大…

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