白内障は、水晶体の混濁や硬化によって視力が低下する疾患です。しかし、白内障手術を受けても「手元が見えづらい」といった老眼の症状が治るわけではありません。眼科の専門医が解説します。※本連載は、日本眼科学会認定の眼科専門医である山﨑健一朗氏の書籍『人生が変わる白内障手術 第3版』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、編集したものです。

老眼のメカニズム

白内障とは、水晶体が混濁したり硬化したりすることによって視力が低下する疾患です。白内障手術では、その水晶体を取り除きます。したがって白内障手術で得られるメリットを知るには、水晶体の働きを理解する必要があります。

 

そもそも水晶体とは目の中でどのような働きをしているのでしょうか?

 

目は角膜を透過して瞳孔から入った光が水晶体を通過し、網膜に届くことでものを見ています。若年者の水晶体は弾力性があり、周囲の筋肉の力で厚みを変えることができます。

 

水晶体は厚みを変えることで通過する光の屈折の度合いを調整して、水晶体の後方にある網膜に焦点を合わせます。この水晶体の光の屈折の度合いを変える能力を調節力といいます。正常な眼球ではこの屈折が正確に行われることによって、どの距離のものにもぴったりと網膜に焦点を合わせることができます。

 

若い人の水晶体は、遠くから近くまで広い範囲の距離の変化に対応できるように、十分な調節力があります。しかしその調節力は、加齢に比例して衰えていきます。調節力の低下の原因は、水晶体の硬化や水晶体周辺の組織の機能の問題であると考えられています。

 

若い頃に遠くも近くも見ることができるのは、水晶体に十分な弾力性があって、周囲の筋肉などの力によって厚くなったり薄くなったりと柔軟に変化させることができているためです。ところが加齢によって目の調節力が衰えた状態になると、焦点を合わせることができる距離の範囲が狭くなってしまいます。これが老眼のメカニズムです。

 

調節力の低下は子供の頃からしだいに始まり、40歳頃から症状が出はじめますが、60歳の頃にはほとんどその機能はなくなってしまいます。

単焦点眼内レンズで老眼は治らない

白内障手術では濁った水晶体を取りのぞき、代わりに人工の水晶体である眼内レンズを挿入します。

 

先ほど述べた通り、正常の水晶体には、厚みを変えることで焦点を合わせる機能があります。しかし人工の水晶体である眼内レンズは、そのように厚みを変えることはできません。つまり白内障手術後には基本的には焦点を自在に変えることはできないのです。

 

したがって単焦点眼内レンズを使用する通常の白内障手術では、あらかじめ決めた一定の距離でしか焦点が合いません。一般的には単焦点眼内レンズによる手術の場合には遠方に焦点を合わせるので、手元の活字を読むときなどは必ず老眼鏡が必要となります。老眼鏡をかけると今度は遠くが見えにくいので、遠くを見るときにはいちいち老眼鏡をはずさなければいけません。単焦点眼内レンズでは、このような老眼の状態はまったく治らない、ということです。

若い人が単焦点眼内レンズによる手術をすると…

それでは単焦点眼内レンズの手術を受けた場合は、皆さんがたいへんな不便を感じるのでしょうか?

 

高齢者の手術の場合、単焦点眼内レンズによる手術では調節力が手術前よりも落ちてしまうのか、というとそうではありません。なぜなら、白内障手術を受ける平均的な年齢は60〜70歳代ですが、その年齢では目の調節力はほとんどなくなっているからです。

 

つまりこのような年齢で単焦点眼内レンズによる白内障手術を受けた場合には、手術前と老眼の状態は変わりません。

 

しかし、若年者が白内障手術を受ける場合には、これはあてはまりません。若年者の場合には手術前には老眼の状態にはなっていないので、単焦点眼内レンズによる手術を受けると、「白内障手術をしたら老眼になってしまった」ということになります。

 

それでは、そのようなことにならない白内障手術はあるのでしょうか?

多焦点眼内レンズの登場

現在では、前述のような単焦点眼内レンズによる不便さを改善した眼内レンズが開発されています。それが多焦点眼内レンズです。

 

多焦点眼内レンズとは、ピントの合う範囲が、単焦点眼内レンズと比較して広くなっているレンズです。

 

単焦点眼内レンズによる手術でも、濁った水晶体をきれいな眼内レンズに置き換えるので、視界はクリアになります。

 

しかし、焦点の調節機能はまったくありません。つまり、「白内障手術をしても、やっぱりメガネのかけはずしからは解放されない」という状態になります。特に若年者の場合には、白内障手術をしたらかえって老眼のような見え方になってしまった、という状況になります。

 

それに対して、近年開発された「多焦点眼内レンズ」では、遠くと手元の広い範囲の距離にピントが合っています。したがって多焦点眼内レンズではメガネが必要となる場面がほとんどありません。

 

多焦点眼内レンズでは、さまざまな場面で焦点の合いやすい視力となり、豊かな生活を営むことができます。次回からは、従来からある「単焦点眼内レンズ」と、最先端の白内障治療である「多焦点眼内レンズ」の違いについて詳しくご紹介します。

 

 

山﨑 健一朗
日本眼科学会認定 眼科専門医

 

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※本連載は、日本眼科学会認定の眼科専門医である山﨑健一朗氏の書籍『人生が変わる白内障手術 第3版』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、編集したものです。

人生が変わる白内障手術 第3版

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山﨑 健一朗

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