政府は「トリガー条項」ではなく「事業者への補助金」で対応
これまで、政府は、ガソリン価格の高騰に対して、「燃料油価格激変緩和補助金」による対策を行ってきました。これは2022年1月から始まったもので、「石油元売事業者」と「輸入事業者」に対し、価格上昇を抑える減資に充ててもらうための補助金を支給するものです。
トリガー条項の凍結を解除し、発動させるという選択肢はとられませんでした。これには理由があります。
実は、政府はガソリン価格が高騰し始めた当初、トリガー条項の発動を検討していました。しかし、結局は、ガソリン税が国にとっても地方自治体にとっても貴重な税収になっているという実情に配慮して、一時的な「補助金」で対処することになったという経緯があるのです。
すなわち、財務省の資料「自動車関係諸税・エネルギー関係諸税(国税)の概要」によれば、2023年度予算において、ガソリン税の税収は2兆2,129億円(揮発油税1兆9,990億円、地方揮発油税2,139億円)となることが見込まれています。また、2022年2月に金子総務大臣(当時)は、「トリガー条項」を発動した場合、地方自治体の税収が1年間で約5,000億円減少するという試算結果を明らかにしていました。
トリガー条項を発動させることによる税収の大幅な減少を避けるという政策的判断が行われたということです。
政府がトリガー条項の凍結解除を検討せざるを得ない事情
ガソリン税が国・地方自治体にとって重要な財源であるという実態はいっさい変わっていません。そうであるにもかかわらず、なぜ、岸田首相は今このタイミングで、トリガー条項の凍結解除を検討する意向を示したのでしょうか。
もちろん、トリガー条項の凍結を求める意見が根強いということも理由の一つかもしれません。しかし、それ以上に、現時点で、補助金というしくみをこれ以上継続するのが難しくなってきているという事情が挙げられます。
そもそも本来、補助金というしくみはその性質上、一時的・時限的なものであり、恒久的に行うものではありません。また、特定の事業者を優遇する側面があるので、長期化すると他の事業者との間で公平を欠くことになるおそれがあります。
したがって、ガソリン価格の高騰が長期化するにつれ、補助金の制度で対応しようとすると無理が生じることになります。
現在のガソリン価格の高騰の主な要因は2つです。第一に、ロシアのウクライナ侵攻が長期化し、全世界的な「エネルギー価格の高騰」を招いていることです。第二に、日本と諸外国の金利差が大きくなっていることによる「円安」です。これらはいずれも、短期で解消される見込みが乏しいものです。
この状況で、政府は、燃料油価格激変緩和補助金を2024年4月末まで継続することを決定しましたが、それまでにガソリン価格が落ち着くということは見通せません。
それに加え、補助金の額自体も大きくなっています。資源エネルギー庁によれば11月23日~29日の補助金額は1リットル23.5円で、トリガー条項が発動された場合の下げ幅である1リットル25.1円と近い金額に達しています(過去には補助金による値下げ幅が1リットル40円を超えたこともあります)。
そんななか、岸田首相がトリガー条項の凍結解除を検討することを表明した背景には、補助金よりも、トリガー条項で対応するほうが制度的に無理がないという事情があると考えられます。
ガソリン価格の高騰は、国民生活に重大な影響を及ぼし続けており、価格高騰を抑える政策がますます重要になっています。トリガー条項の凍結解除の是非に加え、今後、ガソリン税の「特例税率」と「一般税率」の関係をどうするのかといったことについても、重大な課題になっていくことが考えられます。
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