(※写真はイメージです/PIXTA)

がん治療をめぐって、家族や本人のあいだでトラブルになるケースは少なくありません。その原因の多くは、がんで家族を失う恐怖とがんに対する知識の欠如がほとんどです。本人にとっては家族を思っての行動かもしれませんが、度を越えてしまうと老後破産や家族関係の崩壊に至ってしまう恐れがあります。本記事では、山内さん(仮名)の事例とともに、がん治療をめぐるトラブルへの対処法と正しいがん知識の身につけ方について、株式会社ライフヴィジョン代表でCFPの谷藤淳一氏が解説します。

知識の欠如が招く老後破産と家族崩壊

今回の事例において、主治医から積極的ながん治療の終了が伝えられ在宅医療への切り替えを勧められたにもかかわらず、家族の主張を受け入れ自由診療の免疫療法を選択。結局大した効果も得られず、むしろ体調が悪化して再び在宅医療に移行を目指すという事態になったのはどういったことが原因だったのでしょうか。

 

ひとつあげられることとして、医療やがん治療に対する基本的な知識の欠如があります。事例の長男は「健康保険証がきいて受ける治療は費用が安くいい治療ではないため、高額な費用をかけていい治療を受けるべきだ」といった主張をしたわけですが、それは不適切な判断だといえるかもしれません。

 

健康保険証が適用で小さな費用負担で受けられる治療は、数多くの臨床試験のデータなどから患者さんに提供されるべき治療であると、国が推奨している治療です。がん治療の場合、それを『標準治療』といい山内さんもその国が推奨する治療を受けてきました。

 

ただ、その標準治療も無限に存在するわけではなく治療が長期化した場合、今回の事例のようにどこかで終了するときが訪れることがあります。そういった日本のがん治療のしくみを知っていないと、その状況になったときに病院や医師に見捨てられたと誤解し、不安定な精神状態になってしまう可能性があります。

 

そして家族間での情報の共有がない場合に、家族間の不和を招きその後の判断に影響をおよぼす場合もあります。

 

今回の事例では長男以外の3人は知識がないなりにも、主治医やがん相談支援センターで話を聞き、主治医の勧めに応じて対応しようとしましたが、数年間情報が無かった長男は突然治療が終了という事実だけ突き付けられ、がんで家族を失う恐怖心から衝動的な行動に出て、結果家族間での争いを引き起こすことになってしまいました。

 

インターネット上のがん治療情報は玉石混交

いまはインターネット上であらゆる情報が得られるようになっています。当然がん治療に関する情報も同じです。ただインターネット上には膨大な量の情報が存在し、知識がない状態でそれらを見ても、どの情報が信頼できるものか判断することはかなり難しいかもしれません。

 

国のがん対策のなかでもこのことは問題視され、がん患者やその家族が信頼できる適切ながん治療情報にアクセスできるための取り組みが課題となっています。

 

実際がん治療においては自由診療で行われる高額な費用の治療が多数存在し、身近なクリニックでそういった治療が行われています。また、医療以外でも「〇〇でがんが消えた!」といったキャッチフレーズで水、健康食品、サプリメントなどの勧誘をするサイトも多数存在し、なかには詐欺的なものもあって国も注意喚起をしています。

 

こういったことをあらかじめ知っておくと、情報の接し方にも慎重になり慌てて結論を出すことがなくなるかもしれません。

 

老後破産を防ぐために必要な知識の準備

昭和56年以降がんは日本人の死因の第1位であり毎年約100万人が診断されているため、老後不安の原因のひとつであるといえます。それに対し現役時代から老後のがんの備えとして何をするかというと、一般的には、

 

■お金を貯めておく

■がん保険に加入しておく

 

という行動をとる人が多いかもしれません。ところがお金の準備をしていてもお金を使うにあたっての判断力、すなわちがんやがん治療に関する知識がなければ、衝動的な判断をして高額な治療に傾倒して数千万円単位の出費となり、たちまち『老後破産の危機』を招く可能性があります。

 

またがんは家族単位の戦いともいわれています。今回の事例のように家族間で知識や情報レベルに格差があると、大事なときに意見の衝突などで家族の協力関係が壊れてしまい、それが『老後破綻の危機』につながってしまう恐れもあります。

 

国もがん対策推進基本計画の中で、がん対策のベースとして「国民ががんを知ること」という方針を示しています。備える対象であるがんという病気のことをよく知り、お金だけではなく知識をはじめとした必要な準備をしていくことが大切です。

まとめ

「老後が不安だ」と感じ、老後の準備を考える時間がある現役時代に、資産形成と同時に安心して生きていくために必要な知識(知恵)を蓄積していくという発想も大切であるといえます。

 

まさにいまがん保険などを検討しがんに備えたいと思っている方は、お勧めのがん保険選びだけでなく国ががん対策として国民に対して求めている「がんを知る」ということに意識を向けてみてはいかがでしょうか。

 

 

谷藤 淳一

株式会社ライフヴィジョン

代表取締役・CFP

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