2. 生前の準備ができない場合は、申立人が利害関係人に該当するか確認した上で、相続財産清算人選任申立てを検討する
(1)相続財産清算人とは
生前に前述のような準備ができずに亡くなってしまった場合、法定相続人ではない親族が死後に預金を引き出すことはできなくなってしまいます。
相続人不存在の場合、被相続人の財産を管理・承継する者がいなくなるため、家庭裁判所が利害関係人または検察官の請求によって相続財産清算人を選任し(民952)、同人に相続財産の管理・清算等を行わせた上で、最終的に残余財産があれば国庫に帰属させることになります(民959)。
(2)相続財産清算人の選任申立手続
相続財産清算人の選任申立権者である「利害関係人」とは、相続財産の帰属について法律上の利害関係を有する者であり、受遺者、相続債権者、相続債務者、相続財産上の担保権者、特別縁故者(民958の2)などが該当します。
相続財産清算人の選任申立ては、「相続が開始した地を管轄する家庭裁判所」(家事203一)、すなわち、被相続人の最後の住所地(民883)を管轄する家庭裁判所に、申立費用と必要書類を準備して行います。
申立てに際しては、原則として相続財産管理費用の予納が求められます。審理の結果、申立人の利害関係性、管理開始要件等が認められると、相続財産清算人が選任されることになります。
(3)あてはめ
本事例では、親族が姪の生前の医療費や住居費を立て替えていた場合や、姪と生計を同一にしていたり、療養看護をしていたりするなど特別縁故者に当たる場合には、利害関係人として相続財産清算人の選任申立手続を行うことができます。
また、親族が葬儀費用等を立て替えた場合には、厳密には相続債権者とはいえませんが、利害関係人として申立権が認められます(法曹会決議昭7・3・16参照)。
3. 相続財産清算人に対し、葬儀費用等を支出するための権限外行為許可の申立てを促すことを検討する
(1)相続財産清算人の権限
相続財産清算人の権限は、保存行為および利用・改良行為に限られるため、当該権限を超える行為を必要とする場合には、家庭裁判所の許可が必要となります(民953・28)。
葬儀費用等の支出は処分行為に当たるため、相続財産清算人が同費用を支出するに際しては、家庭裁判所に権限外行為の許可審判を申し立てる必要があります。
葬儀等の費用は、当然に相続財産から支払われるべき費用ではないものの、実務においては、被相続人と祭祀法事を執り行いまたは執り行おうとしている者との関係、被相続人の生前の意思、相続財産の額、祭祀法事の内容、そのために必要とされる費用の額、近隣地域の社会通念等を考慮して、社会的に相当とされる費用について相続財産から支出することを認めています。
祭祀法事を執り行った者によって費用が既に支出されている場合は、祭祀法事内容の特定、支出金額、その領収書、支出見込みである場合には、その見積書、墓地や墓石の写真等の資料を検討した上で、社会的に相当と認められる額が認定されています。
(2)あてはめ
親族の私としては、姪との関係や姪の生前の希望、葬儀や永代供養にかかる具体的費用について選任された相続財産清算人に説明し、権限外行為の許可申立てを促し、葬儀等に関する費用を姪の財産から支出してもらうことになります。
〈執筆〉
濵島幸子(弁護士)
平成23年 弁護士登録(東京弁護士会)
〈編集〉
相川泰男(弁護士)
大畑敦子(弁護士)
横山宗祐(弁護士)
角田智美(弁護士)
山崎岳人(弁護士)