2023年11月のアジア・マーケット・マンスリー(後半)はコチラ>>
アジア:マーケット動向
⇒【株式】概ね下落、【通貨】概ね下落、【債券】概ね金利上昇。
【株式市場】
◆マレーシアは上昇も、その他は下落
米国株式市場が、長期金利上昇や中東情勢を巡る不透明感から軟調に推移したことを受け、アジア・オセアニア株式市場も総じて軟調だった。ベトナムは、ベトナム国家銀行が金融市場から流動性を吸収したことなどが嫌気され、韓国は米大手電気自動車(EV)企業の7-9月期決算が市場の事前予想を下回ったことなどからバッテリー関連銘柄が市場の下げを主導した。また、政府による景気支援策に対する不透明感が高まったタイや、緊急利上げを発表したフィリピンも下落。中国は不動産市場を巡る信用懸念が高まり、外国人投資家が売り越しとなったインドも軟調だった。一方、マレーシアは、消費者物価指数(CPI)が市場の事前予想を下回ったほか、政策対応による景気の先行き見通しや、金融業界における競争環境改善への期待から上昇。
【通貨(対米ドル)】
◆概ね下落
米ドル堅調下で、主なアジア通貨の対米ドルレートは下落した。証券投資から資本流出が加速したインドネシアルピアが最も下落した。弱めの雇用統計であった豪ドルは次いで下落した。一方、9月の経常収支黒字が大幅に拡大したタイバーツは上昇した。
【債券(国債)市場】
◆多くの国で金利上昇
アジア国債利回りは欧米金利とも連動し一部の国を除き上昇した。インドネシアでは自国通貨の安定性を高め輸入インフレの影響に対処するため9ヵ月ぶりに利上げが実施された。シンガポールでは金融政策の維持が発表されるなか、長期金利は小幅に低下した。
<※参照:各国の株価指数の名称>
●中国:上海/深圳CSI300指数、●香港:ハンセン指数、●韓国:韓国総合株価指数、●台湾:台湾加権指数、●インドネシア:ジャカルタ総合指数、●マレーシア:クアラルンプール総合指数、●タイ:SET指数、●ベトナム:ベトナムVN指数、●シンガポール:シンガポールST指数、●フィリピン:フィリピン総合指数、●インド:SENSEX指数、●オーストラリア:ASX200指数
中国<金融市場動向>
⇒株式は上値の重い展開、人民元に下落。リスク、金利はもみ合いながら低下。
【株式市場】
◆中国政府が景気浮揚に動く
23年9月の中国のCPI伸び率が市場の事前予想を下回り、デフレ懸念が高まったほか、中国の半導体高度化を警戒する米国政府が先端半導体の対中輸出規制を強化すると発表したことが嫌気された。中国政府は景気浮揚に向け、中国では異例となる年度途中での予算修正を行い、1兆元の国債の追加発行を承認したが、不動産企業を巡る信用懸念などが株式市場の重石となった。投資戦略においては、引き続き構造的な成長分野の有力企業、政策のサポートを得ている企業、国際競争力のある企業、増配が期待できる企業に着目し、ツーリズム関連や環境関連、国産化が進展するソフトウェアや工場自動化部品、消費の高度化などを長期目線では有望視できそうだ。
【為替・債券(国債)市場】
◆人民元に下落リスク
短期的には米国の金融引き締め観測を背景に米ドルは堅調に推移しやすく、人民元は米ドルに対して下落しやすい。また、当面は日銀による追加引き締め措置は出ないとの観測は円安を支持するが、財務省による円買い介入警戒から対円でも元安リスクに留意したい。
◆債券利回りはもみ合いながら低下する展開
中国では、経済指標の上振れや流動性環境のタイト化が金利の上昇圧力となった一方、政府の流動性供給支援への期待が金利の低下圧力となり、金利は一進一退の推移。目先は、政府が追加国債発行を発表したものの、景気下支えの効果は限定的に留まり、追加の政策期待が一巡する中、中国経済の回復の鈍さが意識される状況に戻る可能性が高いと見込み、中国国債利回りはもみ合いながら低下する展開を予想する。
中国<マクロ経済動向>
⇒10月の景気センチメントは悪化。
◆製造業PMIが50割れ
製造業購買担当者景気指数(PMI)は10月に市場予想を下回り、49.5へ低下した。需要不足が深刻化したためだ。また、製品価格指数が50割れとなったことから、多くの製造業では原材料費用など調達コストが上昇しても、製品価格に転嫁することが難しい状況が続いている。この点は製造業発の低インフレをもたらしている。更に、10月の非製造業PMIは市場予想を大幅に下回り、50.6へ低下した。10月には国慶節を背景にサービス業PMIが上昇してもおかしくないが、むしろ低下した。政府は災害対策のインフラ整備を主目的に国債を1兆元追加発行したが、洪水被害に遭った北部では寒い冬を迎えるため、当面は製造業PMIを押し上げることはなさそうだ。
◆低インフレ局面
7-9月期のGDPデフレーターは前年同期比▲1.4%と2四半期連続でマイナスの伸びとなった。GDPデフレーターは当該経済の体温のようなものであり、需要不足の状況では経済活動が活性化しないため低体温状態といえよう。名目GDP成長率が過去と比較すると低めになりやすい状況であり、低インフレを通じて企業の売上高見通しが低くなりやすい。一方、企業の返済コストは短期的には変化ないため、負債比率の高い企業などソルベンシーリスクの高い企業は経営難に陥りやすい。
◆不動産センチメントは弱い
国家統計局が取りまとめている不動産センチメント指数は2022年1月以降、急速に悪化し、明確な改善に至っていない。9月も悪化した。地方政府は8~9月に住宅市場の規制緩和など不動産対策を発表したが、センチメント悪化を反転させるには至らなかったようだ。①若年層人口の減少傾向、②不動産税導入への警戒感、③住宅引き渡し問題を受けて、住宅価格は低下局面にある。家計の資産の大宗は住宅であるため、住宅価格の下落は負の資産効果を通じて消費の抑制要因となり、需要不足の主因となっているとみる。
(2023年11月7日)
石井 康之
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフリサーチストラテジスト
※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。
※上記の見通しは当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。今後、予告なく変更する場合があります。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『中国、異例の「年度途中での予算修正」を行うも不動産企業を巡る信用懸念などが株式市場の重石に【三井住友DSアセットマネジメントが解説】』を参照)。