過去20年の物価…“上がったもの・下がったもの”
もう少し[図表1]を読んでみましょう。2013年頃から緩やかに消費者物価指数が上がっており、これをもってデフレ脱却を主張する声もあります。果たしてこの楽観的な予測は正しいのでしょうか?
それを判断するために、物価が上がったもの、下がったものの内訳を詳しく見てみます(図表2参照)。
この20年で目立って物価が上がっているのが「光熱・水道」と「食料」です。エネルギー(光熱・水道)と食料は生活必需品の最たるものであり、化石燃料はもとより、食料自給率が4割を切る日本では、ともに輸入品の割合が高くなっています。
つまりこれは、輸入品の物価が上がっているということです。端的に言えば「海外に日本の所得が流出している」ことを意味し、これは「悪い物価上昇」にあたります。
一方、下がっているのは「家具・家事用品」「教養娯楽」「教育」です。
「家具・家事用品」では、逆に安い海外製品が入ってくることで国内産業を圧迫し、所得の海外流出が起こっていることを意味します。テレビやパソコンなどの「教養娯楽」も同様です。
「教育」はどうでしょうか。これは価格のメインが人件費になりますから、教育分野が下がっているということは、人件費が下がっていることを意味します。オンライン英会話で直接ネイティブとつながれるようになったり、塾の人気講師の授業をどこででも受けられるようになったり、デジタル化の影響も大きいのかもしれません。
いずれにせよ、物価上昇の内訳を見ると、日本国内が恩恵を受けにくいところが上がり、日本国内の人の所得につながるところでは下がっていることが明らかです。
しかし、このグローバル時代、原油高騰や安い海外製品の輸入はどこの国でも同様のはずです。なぜ日本だけ「悪い物価上昇」が進むのでしょうか。
そして「良い物価上昇」を果たせている海外とは何が違うのでしょうか? それは、海外では「サービス」の値段が上がっていることによります。
サービスとは「モノのやり取りをしない経済取引」です。財(モノ)の取引では値段の大部分は製造コストが占めることになりますが、サービスの取引では基本的に、サービスを行った人の人件費が価格になるので、賃金に直結するのです。
物価上昇率をモノとサービスに分けて欧米圏と比較してみると、日本ではいかにサービス価格の上昇率が低いかがわかります(図表3参照)。
永濱 利廣
第一生命経済研究所
首席エコノミスト
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