破綻した銀行の創業者〈2億5,000万円分の株式〉を税理士に譲渡も…「資産として認められない」【税理士が解説】

破綻した銀行の創業者〈2億5,000万円分の株式〉を税理士に譲渡も…「資産として認められない」【税理士が解説】

多額のお金が動く、株式の譲渡。しかし、法的に有効な株式であっても「資産」として認められないものはすべて「無価値」になってしまうことがあると、税理士の伊藤俊一氏は言います。本記事では、同氏による著書『税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方』シリーズ(ぎょうせい)から、債務超過で破綻した銀行の株式が資産として認められなかった判例をもとに、株式が価値を持つ定義について解説します。

解散する銀行の株式には、将来行使できる権利がないので「資産」にならない

2 納税者の主張に対する判断

(1)

イ 株式が譲渡所得の基因となる「資産」に該当するかどうかは、当該株式の自益権及び共益権が法的に消滅しているかどうかという観点から検討するだけでは足りず、株主がこれらの権利を行使することが事実上可能かどうかといった観点や、行使した場合に実益があるかどうかといった観点からも検討を行うべきであるから、

 

本件株式が消却されて法的に消滅するまでは本件株式が所得税法33条1項の規定する譲渡所得の基因となる「資産」に該当するということはできない(第一審判決引用)。

 

ロ 本件譲渡の前後を通じて剰余金の配当や残余財産の分配を行う余地がなく、また、一般的に株主総会における議決権等の共益権を現実に行使しうる余地を失っていた上、本件銀行が一部事業譲渡の後解散して清算されることが予定されていた状況においては、

 

本件株式につき一部の株主権の行使が法律上可能であるという点を考慮しても、本件株式は、所得税法33条1項の規定する譲渡所得の基因となる「資産」には該当しない(※下線筆者)ものと認めるのが相当である(当審判断)。

 

ハ 金融庁長官が金融整理管財人による管理を命ずる処分を行ったり、民事再生手続開始決定がなされたからといって、本件株式の株主としての法的地位や法的権利そのものの存否が直ちに変動するものではないが、

 

法的に自益権や共益権を有していることと現実にそのような権利を行使し得ることとは別であり、現実には本件株式について、将来にわたって自益権や共益権を行使し得る余地がなくなっていた以上、本件株式に経済的価値は認められず(※下線筆者)本件株式は、所得税法33条1項の規定する譲渡所得の基因となる「資産」には該当しない(当審判断)。

 

(2)本件株式が本件譲渡の時点で株式としての経済的価値を有するか否かの判断は、自益権及び共益権の有無を基準として客観的事実に基づいて判断されるべきもの(※下線筆者)であり、

 

本件譲渡の当事者であるD税理士やXの主観的意図によって判断されるべきものではないから、XとD税理士の間で、本件株式を1株1円で譲渡され、現にその代金が支払われていたとしても、

 

つまり、株式の譲渡としては全く有効にされていたとしても、客観的にみて、本件株式が譲渡所得の基因となる「資産」に該当するものであったと認めることはできない(第一審判決引用)。

 

国税訟務官室からのコメント

本件においては、破綻した銀行の株式が、所得税法33条1項の規定する譲渡所得の基因となる「資産」に該当するか否かが争点となっている。

 

第一審判決は、

 

①所得税法33条1項の規定する譲渡所得の基因となる「資産」の意味を明らかにし、
②一般に経済的価値が認められて取引の対象とされる株式の性質を示した上で、
③株式が当該「資産」に該当する場合又は該当しない場合を示し、
④本件譲渡の時点における本件株式について事実認定及び当てはめを行い、

 

本件株式は所得税法33条1項の規定する譲渡所得の基因となる「資産」に該当しないと判断した。本判決は、当審におけるXの主張に対する判断を加えるほかは、第一審判決の判断のとおり判示したものである。

 

 

伊藤 俊一

税理士

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