(画像はイメージです/PIXTA)

事業を行うなら、節税への真剣な取り組みは必須です。本記事では、個人事業者に向け、うっかり見逃しがちな節税ポイント、領収書がない支払いを経費化する方法、印紙税の節約術について取り上げます。※本記事は『<改訂2版>らくらく個人事業開業のすべてがわかる本』(あさ出版)より抜粋・再編集したものです。

領収書のない支払でも「経費」になる

◆出金伝票を切って領収書がわりに!

事業のために支払った金額を経費として処理するためには、領収書を保存しておく必要があります。

 

領収書は実際に経費として支払っていることを証明する書類ですから、これがあれば万が一税務署の調査が入ったときでも安心です。

 

その一方で領収書がもらえない支払金額、これも結構あると思います。

 

例えば、

 

●移動時の電車賃、バス代

(※ Suicaなどのプリペイド式カードへチャージしただけでは経費になりません。実際に電車賃やバス代として使った部分のみが経費となります)

 

●自動販売機で購入した物品代

 

●香典、祝い金等の支払

 

などです。

 

それでは、これらの領収書のない支払は一切経費にできないのでしょうか。結論から言えば、事業のために使ったのですから経費にできます。

 

しかし、実際に支払ったところを第三者が見ていて証明してくれるわけではありませんから、それなりの信憑性をつけなければなりません。

 

領収書のない支払をしたつど出金伝票をおこし、領収書のかわりに活用しましょう。

 

出金伝票に日付、金額、支払先を正確に記入し、内容についても明らかになるようにきっちり記入しておきます。下記の図表1の記入例を参考にしてください。この出金伝票を領収書のかわりとして保存しておくのです。

 

[図表1]「出金伝票」の記入例

 

後で金額などがわからなくならないように、支払のつど、忘れずに記入する癖をつけることが大切です。さらに、交通費等であれば、精算の明細に業務の内容を記載した業務日報なども合わせて保存しておけば、証拠書類として有用です。慶弔の支払については礼状や案内状などがあればこれらも証拠書類となります。一緒に保存しておきましょう。

 

また、領収書のない支払はほとんどが現金支払でしょうから、その現金支払は現金出納帳に記載されます。現金出納帳にも詳細を記載しておけば、時間的経過が明瞭ですから、さらに証拠能力を増します。

契約書は1通しか作らなくてもかまわない

重要度の低い契約書は1部だけ作成、もう1部はコピーで

事業をしていると契約書を作成する機会が幾度となくあるでしょう。実際に取引を始める際に、口約束だけでは後のトラブルに発展する可能性があるため、取引の具体的な条件についての取り決めを文書にして残しておくことはとても重要です。

 

そこで、注意したいのが、契約書に貼る義務のある収入印紙です。

 

印紙税とは、印紙税法に定められた文書を作成した場合に、定められた金額の収入印紙を貼り、消印することにより納付が完了します。契約書には印紙を貼らなくてはいけないものとそうでないものがありますが、印紙を貼る必要がある場合には、この印紙税の金額は結構ばかになりません。

 

※一定の契約書については、令和6年(2024年)3月31日まで上限48万円
[図表2]印紙税がかかる主な契約書 ※一定の契約書については、令和6年(2024年)3月31日まで上限48万円

 

契約書は二者の約束事ですから、通常同じものを2部作って、お互いに1部ずつ保管します。

 

この場合、当然ながら印紙税も2倍かかります。ところが、契約書は必ず2通作らなくてもよいのです。重要度の低いものであれば、作成するのは1部だけ、もう1部はコピーでかまいません。

 

例えば、売上について前金をもらう取り決めであれば、売掛金の回収漏れの心配はまずありません。自分の分はコピーをもらえば十分です。

 

そこで気をつけたいのは、契約書は、必ず署名・押印、印紙の貼付・消印がすべて終わったあとにコピーするということです。署名・押印する前の契約書をコピーして、コピーしたものに署名・押印してしまうと、それはコピーではなく、契約書の原本であるとみなされます。原本であれば印紙を貼る必要が生じてしまいますので注意してください。

代金の受領は「振込」にする

◆領収書の印紙税を節約

支払を経費とするために、領収書を保管しておくことが重要であることはすでに述べましたが、それは得意先のお客様にとっても同様です。売上の代金を受け取ったときには、こちらが領収書を発行しなければなりません。

 

ところが、領収書を作ると印紙税がかかるのです。

 

領収書に貼る印紙の金額は下記の図表3のように定められています。

 

※平成26年4月1日以降作成された領収書から
[図表3]領収書に貼る印紙の金額 ※平成26年4月1日以降作成された領収書から

 

この印紙代も積もり積もれば結構な金額になります。そこで、領収書の印紙についても節税を考えましょう。次のような方法が考えられます。

 

①消費税込みで記載すれば総額に対する印紙税額となるが、消費税額を別記すれば税抜きの記載金額に対応する印紙税で済む

 

②代金を数回に分けて受領したものを1枚の領収書で済ます

5万円×10回で200円の印紙10枚がいるところを、50万円を1枚で切ると印紙200円1枚で収めることができます。

 

③領収書を発行しない

この領収書そのものを作らないという方法ですが、それには銀行振込を活用するのです。

 

売掛代金については振込による回収とします。

 

この場合、お客様の手元に残る振込依頼書が領収書のかわりになることをお客様に了承していただきます。

 

印紙が節約できる上に、こちらで領収書を作成する手間が省け一石二鳥です。

 

仮に500万円の売上代金について領収書を発行すると1000円の印紙がかかります。これを振込にしてもらって、領収書を発行しなければ、印紙税は不要になります。

 

ただし、お客様には振込手数料がかかりますので、先方が振込手数料差引で振り込んでくる場合があります。それでも通常振込手数料のほうが印紙税より安くなるのです。

 

 

山端 康幸
東京シティ税理士事務所
代表税理士

【改訂2版】らくらく個人事業開業のすべてがわかる本

【改訂2版】らくらく個人事業開業のすべてがわかる本

山端 康幸 編
東京シティ税理士事務所 著

あさ出版

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