安定感のある大企業か、裁量の大きい中小企業か…。就職活動における会社選びの選択肢はさまざまですが、仕事の内容を重視して「あえて」中小企業を選択する人は少なくありません。最近では、「給与・福利厚生」を理由に中小企業を選ぶ人も増えており、大企業並みの待遇を用意している中小企業もない訳ではありませんが、平均値をみる限り、中小と大企業との差は歴然です。詳しくみていきましょう。
1億円あったら何ができたかな…60歳の元・中小企業サラリーマン、大企業・勝ち組同期との〈生涯賃金格差〉に苦笑い (写真はイメージです/PIXTA)

明らかに「良い家」に暮らしている大企業サラリーマン

「大きな裁量を持って仕事をしたい」という志を持っていたとしても、思わず挫折してしまいそうな給与格差。

 

さらに追い打ちをかける事実をもうひとつ。

 

総務省『家計調査 貯蓄・負債編』(2022年平均)で、勤労世帯における貯蓄額を勤務先の企業規模別にみていくと、世帯主が従業員数100人未満の中小企業に勤める世帯の貯蓄額は平均1,088万円で負債額は656万円、貯蓄額から負債額を引いた純貯蓄は432万円。一方、従業員数1,000人以上の大企業勤務世帯の貯蓄額は1,775万円に対して負債額は1,075万円と大きく、純貯蓄は700万円。

 

意外にも、資産額には大きな差がないと感じるかもしれませんが、大企業勤務世帯の負債額1,075万円のうち1,021万円は「住宅・土地のための負債」、つまり住宅ローンです。中小企業勤務世帯のそれは平均582万円ですから、大企業サラリーマン世帯のほうが明らかに「良い家」に住んでいることがわかります。

 

住宅ローンを貸す側の金融機関は審査時に、利用者の年収や勤続年数はもちろん、「勤務先の信用」を重視します。勤め先が信用に値する大企業なのか、名前を聞いたこともない中小企業なのかによって、借りられる金額に差が付き、それがマイホームのグレードの差につながっているのです。

大企業と中小企業の「格差」は引退後も続く

大企業と中小企業の差は、サラリーマン引退時や年金生活突入後も続きます。

 

まずは60歳の定年退職時に手にする退職金。日本経済団体連合会の『2021年9月度退職金・年金に関する実態調査』によれば、勤続年数38年の大卒サラリーマンが手にする退職金は「管理・事務・技術労働者(総合職)」で平均2,243万3,000円。一方で中小企業の場合は、大卒の定年退職で1,091.8万円(東京都産業労働局『中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)』)と、大企業の半分程度です。

 

退職金を加味した生涯賃金は、中小企業サラリーマンが2億円強であるのに対して、大企業サラリーマンは3億円強。40年弱続いた会社員人生の末に、元中小企業勤務サラリーマンが直面する大企業に進んだ動機との賃金格差。あまりにも大きすぎる差を前に「ハハ…1億円あったら何ができたかな」と苦笑いするしかありません。

 

さらに、ともに60歳で定年退職したとして、65歳から手にする年金額を考えると、中小企業勤務のサラリーマンであれば老齢厚生年金は8万9,000円、老齢基礎年金と合わせると月15万5,000円ほどとなります。一方、大企業勤務のサラリーマンは老齢厚生年金が12万5,000円、老齢基礎年金と合わせると月19万1,000円ほどになります。

 

月あたりの差は3万6,000円と、現役時代の収入差ほどではありませんが、昨今のような物価上昇局面では、数万円の差は死活問題にさえなり得ます。

 

ここでみてきた計算は、あくまで平均値に基づくものであり、実態と異なるところもあるかもしれません。ただ、「チャレンジングな環境を求めた中小企業サラリーマン」と「安定を重視した大企業サラリーマン」の間の給与差は明確。さらには退職金や、老後に受け取る年金額にも大きな差が付くことは明らかです。

 

昨今の賃上げの動きをみていても、恩恵を受けているのは大企業ばかりであり、中小企業と大企業の給与格差はますます広がっていくといわれています。定年退職間際、40年弱に及ぶサラリーマン人生を振り返ったときに後悔しないためには、就職活動時に企業規模によって明確な給与格差が存在することを念頭に置き、それでも「仕事の内容が大事」と言い切れるのか、落ち着いて検討してみる必要がありそうです。