団塊世代の70代男性、バブルを謳歌しすぎて資産形成間に合わず
夫婦の年金が、月額手取り15万円程度だという佐藤さん(仮名)は、後期高齢者になったばかりの団塊世代。
戦後日本の高度成長期からバブル期を謳歌したこの世代は、日本の年金制度に対する信頼が厚く、自分の老後をすべて委ねるつもりで、現役時代を全力で楽しんだ人たちが多い。
しかし、実際にはこの男性の家庭も年金だけでは生活できず、夫婦それぞれパート勤めをして不足分の生活費を補っているという。
――現役時代はかなり恵まれた状況だったと思いますが、資産形成への意識はどうでしたか?
「それが…」
佐藤さんは言葉を濁し、うつむく。
バブル時代に働き盛りだった団塊の世代のなかには、令和のいまとなっては想像もつかないほど派手な消費を行う人もいた。その勢いを消費ではなく資産形成に振り向け、大成功した人もいるのだが、「宵越しの金は持たない」とばかりにあるだけお金を使ってしまう人も多かったのである。
「当時は買った株がことごとく値上がりし、まとまったお金が入ってくることも珍しくありませんでした」
しかし、佐藤さんはお金を高級外車の購入や、海外旅行等に浪費。それだけでなく、ホテルを貸し切ってパーティーをしたことまであるという。
「当時は、そんな未来がずっと続くと思っていました。冷静に考えればありえないことなのですが…」
金融広報中央委員会の調査によると、70代で「貯金なし」は18%程度。また金融資産が「100万円未満」という70代も5.5%ほどいる。あれほど豊かな時代を謳歌しながら、十分な資産形成をおこなわないまま、年金生活を迎えている団塊世代は少なくないのだ。
堅実な資産形成を行ったものの、人生終盤でまさかのどんでん返し
同じく70代後半の山田さん(仮名)は、バブル時代もあまり派手な生活をすることはなく、退職金と合わせて4000万円の老後資金を貯め、夫婦で15万円程度の年金を受給している。
「私たち夫婦は堅実志向で、バブルのときも比較的冷静でした」
バブルがはじけて周囲が大変な思いをしているときも無事に乗り切り、そのまま穏やかな老後生活へとシフトしたはずだった。
「娘が離婚し、孫を3人連れて戻ってきました」
娘もパートに出ているというが、子どもの生活費を賄うにはまったく足りないそうだ。年を取った夫婦は再び働きに出ている。
厚生労働省の調査によると、ひとり親世帯の8割近くが、離婚を理由にひとり親世帯になっている。昨今、孫を連れて実家に出戻るケースもたまに聞くが、問題は親の経済力だ。もし親世代の貯蓄に余裕がなく、夫婦2人を想定したコンパクトな生活設計だとしたら、とてもではないが子どもと孫まで養ってはいけまい。
老後に見舞われやすい「想定外の事態」3つ
想定外の状況でアルバイトに精を出す佐藤さんと山田さん。しかし、逆の見方をすれば、そのような事情がない限り、大方の人はそれなりの老後生活を送れているというのが、現在の高齢者世帯の実情だといえる。
現役世代の方々は、現在の高齢者の生活状況をよく理解したうえで、抜かりない老後の資産形成をおこなうことが重要だろう。
高齢となった人が直面する「誤算」について、とくにリスクが高いものを見てみよう。
誤算①病気で就労できなくなる
老後資産の形成の重要性は理解していても、子育てや住宅ローンで貯金がはかどらない世帯は多い。「貯蓄なしの世帯」は50代で約30%、60代で約20%。60代に突入すれば資産を大きく増やすことは難しい。それもあり、70代も約20%が「貯蓄なし」の状況だ。多くの記事で「働ける間は働く」という解決策が提示されているが、病気になってしまえばそれも不可能になってしまう。
誤算②自宅の大規模修繕が発生
「持ち家があればどうにかなる」という考え方も根強い。だが、持ち家もそれなりの維持費がかかる。10~15年に1回は外壁や屋根の修繕が必要になり、同じようなペースで水回りの修繕も行わなければならない。おおよその予想を立てて貯金をしていても、近年多発する大型台風や豪雨、夏の異常な暑さなどによるダメージで、想定よりも高額な修繕費が発生することもある。また、物価上昇による資材の高騰も不安材料だ。
誤算③年金の減額リスク
現在、年金を受け取り始める時点(65歳)の年金額が、現役世代の手取り収入額(ボーナス込み)と比較してどのくらいの割合かを示す「所得代替率」は60%程度となっている。これは、現役世代の生活の60%ほどの水準を年金でカバーできる、という意味だ。だが、20年後には50%程度と、2割ほど低下することが確実視されている。この状況を覚悟したうえで老後資金を準備しないと、大変な事態になってしまう。
人生には「想定外」がつきものだが、そうはいっても、現役引退後は心穏やかに生活したいもの。そのためにも計画的に資産形成を行っておきたい。政府も国民に自助努力を求める方向へとシフトした。現役世代の方々は、自身の老後生活に泣かないためにも、速やかな資産形成への着手が望まれる。
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