(※写真はイメージです/PIXTA)

投資の一番のリスクとは何だと思いますか? 損をするかもしれないこと? 予測できないこと? どちらも正解ですが、金融教育家・上原千華子氏は、一番のリスクは「本当のことを知らないこと」だといいます。その中でも怖い3つのケースについて、上原氏の著書『ファイナンシャル・セラピー』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、見ていきましょう。すでに投資を始めている方も、まだ始めていない方にも役立つアドバイスです。

ケース①「自分は知らなくてもいい」と考えている

投資に対する思い込みから、自分は投資や経済のことを知らなくてもいいと考えてしまう。これが一番のリスクだと私は考えています。その中には、お金に無頓着な人もいるかもしれません。このような人たちは、情報収集もしませんし、専門家に相談することもないでしょう。

 

たとえば、「インフレ率3%の場合、3%以上で資産運用しないとお金の価値は下がる」と知らずに、貯金だけをして長い人生を送ったとしましょう。すると、資産運用などの対策をしなければ、物価はどんどん上がるのに、使えるお金は年々少なくなる現実が待っています。

 

お金さえあれば幸せになるとは限りません。しかし、どんな人でも生きていく上でお金は必要です。まずは、お金と真剣に向き合い、本当のことを知りましょう。

ケース②情報を鵜呑みにする

以前、20代の女性とプライベートで会話した時のことです。その方は「友達から『つみたてNISAはお得だから、始めた方がいいよ』とすすめられたんですよ」と話し始めました。それを聞いた私は少し心配になり、「つみたてNISAは初心者向きでいいですよね。お友達は、どうやって金融商品を選んでいるのですか?」と聞いてみたところ、衝撃の答えが返ってきたのです。

 

「SNSで適当に検索して、おすすめの銘柄を買うらしいです。私もそうします!」

 

あまりにもびっくりして、思わず仕事モードになりました。「いや、SNSの情報を鵜呑みにして投資するなんて危険ですよ! ちゃんと勉強してから始めてくださいね! 全世界に分散することが大事ですよ」とお伝えしました。

 

実は、このようなケースはとても多いのです。特に、SNSを主な情報源にしている20~30代に多い傾向があります。

 

「資産形成」に関する情報は、老後2000万円問題が話題となった2019年頃から、よく見かけるようになりました。2020年前後には、経済的な自立と早期リタイアを目指すFIRE(Financial Independence, Retire Early)が若者の間でブームとなり、注目度がアップ。さらにコロナ禍の経済不安から、「どの銘柄がよいか」などの情報が、さまざまなメディア、特にSNSで増えています。

 

SNSをのぞくと、おすすめのレストランを友達に聞く感覚で、目の前の情報に飛びつく人が多い印象です。インフルエンサーの言う通りに投資を始める人もいます。

 

自分に合う金融商品や資産配分は、人によって違います。一番大事なのは、「どの銘柄がよいか」ではなく、「なぜこの銘柄がよいか」、自分で答えを出せること。この商品は自分にとって、どんなリスクとリターンがあるのか、理解することです。

 

人の言う通りにやると楽かもしれませんが、自分なりの答えを出すまでの重要なプロセスがごっそり抜けています。仮に人にすすめられた商品を選んで損をしたとしても、投資判断は自己責任です。

ケース③分かったつもりでいる

30歳くらいの女性と個別相談でお話しした時のことです。「2020年から積立投資を始めていて、資産運用の基礎は分かっています。運用はとてもうまくいっているので、今度は個別株の短期取引をやりたいです」とのことでした。

 

そこで、何に投資をしているのか尋ねると、「アメリカです」しか答えられないのです。「アメリカの何に投資しているのですか?」と聞くと、「一般的な商品です。確かSがついたと思います」とのこと。

 

彼女に対し、私は、「自分が何に投資をしているのか、説明できる知識を身につけたほうがいいですよ。私の講座では短期売買は教えていません」とお伝えしたのですが、その時は、たまたま自信過剰な人が相談に来たのかなと思っていました。

 

しかし、金融広報委員会発表の「金融リテラシー調査2022年」の結果を見たとき、偶然ではないことが分かりました。

 

図表1~3にその結果の概要をまとめていますが、この調査によると、金融リテラシー正誤問題の正答率は、全体で5割強。これ自体は前回の調査とほとんど変わらないのですが、特に30歳未満(若年層)の正答率や望ましい金融行動をとる人の割合が低いことが見て取れます。また、若年層の金融知識に関する自己評価が客観的評価を大きく上回り、自信過剰傾向なのです。

 

[図表1]金融リテラシー・マップの分野別正答率〈全25問〉

 

[図表2]正誤問題の正答率(年齢層別)

 

[図表3]客観的評価と自己評価の比較

 

コロナ禍で投資を始めた人は、株価急落の経験が少ないので、「投資は簡単だ」と甘く見ているのかもしれません。一見自信があるように思えますが、投資の本当のリスクを分かっていないのでしょう。

 

こういう人たちは、暴落が起きた時にパニック売りをする傾向にあります。投資は正しく恐れることが大切ですね。

 

 

上原 千華子

(株)ウェルス・マインド・アプローチ代表取締役、金融教育家

 

 

欧米投資銀行勤務歴17年、個人投資家歴26年。証券外務員一種、最新の心理学NLPを使ったマネークリニック®認定トレーナー。金融知識だけではお金の不安が消えなかった経験から、心理学を取り入れたライフプランと資産運用を教えている。「お金の教育をもっと身近に、心から豊かな人生を」がモットー。

2022年より「3ヶ月マネー実践講座」を提供開始。ライフプランから資産運用まで自分でできるようマンツーマン指導。多忙な中小企業経営者から支持され、口コミでビジネスが広がっている。

 

※「ウェルス・ファイナンシャル・セラピー®」は株式会社ウェルス・マインド・アプローチの登録商標です(登録668701)。

※本連載は、上原千華子氏の著書『ファイナンシャル・セラピー』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、再編集したものです。

「お金の不安」をやわらげる科学的な方法 ファイナンシャル・セラピー

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上原 千華子

日本能率協会マネジメントセンター

コロナ禍や物価高騰といった経済不安が高まる今、資産形成をしたいと考える人が増えています。 しかし、その考えとは裏腹に、「資産運用をしたほうがいいとわかっているけれど、なんとなく不安で一歩を踏み出せない」「老後…

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