レバレッジをかけて行うFX取引には、ポジションに対して口座残高が少なくなった際に強制的に損失を確定させる「強制ロスカット」という仕組みがあります。損切に慣れていない投資家は、これを避けるために、損失が発生しているタイミングで追加入金をしてしまいがちですが、この行為は損失をさらに拡大させるリスクを孕んでいます。本稿では、テクニカル分析の解説サイト『テクニカルブック』を運営する株式会社アドバンの代表取締役・田中勇輝氏が、FXで1,200万円を失う苦い経験をした山田健太さん(仮名)の事例を基に、失敗を回避するためのポイントについて解説します。
FXで1,200万円溶かした41歳・ベンチャー役員「人生で一番反省しています」…〈地獄への入り口〉はどこにあったのか? (※写真はイメージです/PIXTA)

高収入41歳・ベンチャー役員が「人生で一番反省した」お金の話

ベンチャー企業の役員を務める41歳の山田健太さん(仮名)。年収は1,000万円を超え、生活にも余裕があるようにみえますが、その表情にはどことなく影があります。

 

実は、山田さんは数年前にFXトレードで1,200万円もの損失を出すという大きな失敗を経験していたのです。

 

「FXって簡単だな」という慢心

最初の投資資金は400万円でした。

 

コロナ禍の中、興味本位で余剰資金で始めたFXですが、当初から順調に利益を上げることができました。

 

取引するのは基本的にドル円でしたが、コロナ禍の乱高下を経て、2020年後半は比較的穏やかな動きの中で下落トレンドが続いていました。持ち前の思い切りの良さを武器に、上がったらショート(ドル売り/円買い)、下がり過ぎたら決済するという形で取引を繰り返していると、投資資金は1年ほどで600万円にまで増えていったそうです。

 

「いま思えば、運が良かっただけ」と控え目に話す山田さんですが、当時は「FXって簡単だな」と慢心もあったそうです。

 

2021年に入りドル円のトレンドが大きく上昇方向(円安方向)へと変わる中で、山田さんはもっと大きな利益をねらおうと、さらに強気の取引を行うようになっていました。

 

大失敗トレードのスタートはいつもと同じ。

 

自信があったため、上昇してきたところをねらい普段より多いロット数でショート・ポジションを持ったそうです。

 

しかし、想定していた水準では反転下落せず、その水準を超えると上昇の勢いはむしろ加速していきました。

 

山田さんはあっという間に、このままでは強制ロスカットという状況に追い込まれます。

 

大失敗の始まりは追加入金から

我慢すればドル円は元の水準に戻ってくると強気だった山田さんは、ほかの資産を取り崩してFX口座に800万円を追加で入金。ショート・ポジションも追加して倍に増やしました。

 

実はこの手段を取るのは初めてではなく2回目。前回は成功していました。

 

ただ、ドル円は「ここは簡単には抜けないでしょ」と想定していた水準もあっさりと突破してさらに上昇。含み損は一気に400万円近くまで拡大します。この現実を受け入れることのできない山田さんは、さらに400万円の追加入金をして強制ロスカットをいったん回避しました。

 

ところが、これは現在に至る円安トレンドの序章に過ぎず、ドル円の上昇は止まりませんでした。

 

途中には下に押す局面もあり含み損が100万円を切ったこともありましたが、大きな損切りに慣れていない山田さんは逃げることができません。結局ドル円は上昇を再開、山田さんはさらに700万円の追加入金をしたあげく、とうとう1,200万円の損失で強制ロスカットされることになりました。

 

これまで積み立ててきた貯蓄があり、収入も安定していたため、生活に致命的な影響が出ることこそありませんでした。

 

しかし、余剰資金で始めたはずのFXで資産が大きく削られる結果となり、ショックは相当なものだったそうです。

 

とくに奥さんに打ち明けるときは、人生で一番反省したとのこと。

 

「金額が金額なだけに、妻もとても大きなショックを受けたと思います。ですが思ったほど強く責められず、逆に辛かったですね…」と山田さんは振り返ります。