レバレッジをかけて行うFX取引には、ポジションに対して口座残高が少なくなった際に強制的に損失を確定させる「強制ロスカット」という仕組みがあります。損切に慣れていない投資家は、これを避けるために、損失が発生しているタイミングで追加入金をしてしまいがちですが、この行為は損失をさらに拡大させるリスクを孕んでいます。本稿では、テクニカル分析の解説サイト『テクニカルブック』を運営する株式会社アドバンの代表取締役・田中勇輝氏が、FXで1,200万円を失う苦い経験をした山田健太さん(仮名)の事例を基に、失敗を回避するためのポイントについて解説します。
FXで1,200万円溶かした41歳・ベンチャー役員「人生で一番反省しています」…〈地獄への入り口〉はどこにあったのか? (※写真はイメージです/PIXTA)

誰しも「損切り」が遅れやすいもの

投資において損切りが遅くなりやすい背景には、心理的な性質が関係していると考えられます。

 

試しに次の2つの質問に答えてみてください。

 

質問1:次の選択肢のうち、どちらを選びますか。

(A)無条件で100万円を受け取れる

(B)コインを投げて、表が出たら200万円を受け取れ、裏が出たら何も受け取れない

 

質問2:次の選択肢のうち、どちらを選びますか。

(A)無条件で100万円を支払う

(B)コインを投げて、表が出たら200万円を支払い、裏が出たら何も支払わなくていい

 

人によって回答は異なるかもしれませんが、質問1では(A)を、質問2では(B)を選ぶ人が多いといわれています。

 

つまり、「利益」は確実に手に入れようとする人が多い一方で、「損失」についてはリスクを負ってでも回避しようと考える人が多いということです。こういった傾向は、プロスペクト理論として広く知られています。

 

投資行動に置き換えてみると、ポジションに含み益が発生すればすぐに決済して利益を確定したくなる一方で、ポジションに含み損が発生したときは、含み損が増えてしまうリスクを負ってでも、損失がゼロになるまで待とうとしてしまうということになるでしょう。

 

私たちがなにも意識せずに感覚的に投資判断をすると、形で損切りを先送りしがちなのです。

 

適切に損切りを行うというのは、決して簡単なことではありません。自分自身の感じ方を理解した上で、意識的に冷静な投資判断を心がけることが大切です。

投資での失敗を回避するための5つのポイント

今回は投資で1,200万円という大きな損失を出してしまった山田さんのエピソードを通じ、投資における失敗の原因について説明してきました。最後に、投資で大きな失敗をしないために押さえておきたい5つのポイントを紹介します。

 

・損切を先延ばしにしない
プロスペクト理論にもありますが、人は損切りを先延ばしにしやすい性質があります。しかし損切りすべきところでポジションを持ち続けると、損失が大きく膨らんでしまうかもしれません。大きな失敗を避けるためには、適切なタイミングで損切りの判断ができることが非常に大切です。
・一時しのぎの追加入金はしない
レバレッジのかかるFXなどの投資では、強制ロスカットという取り返しのつかない損失の発生からトレーダーを守る仕組みがあります。しかし追加入金をすると、この“安全装置”が上手く作動しなくなります。強制ロスカットの目的を理解して、一時しのぎのために追加入金は行わないようにしましょう。
・特定の相場シナリオを信じすぎない
とくに取引が順調なときはそうですが、自分の相場観に過度に自信を持つことはないでしょうか。しかし、相場に絶対はありません。特定の相場シナリオに固執しすぎると、相場が逆行した時の対応が難しくなります。どんなに自信があっても、相場が想定とは逆方向に進んだときの準備もしっかりしておくようにしてください。
・適切なロット数で取引する
投資で大きな損失を出さないためには、リスクを適切にコントロールすることが大切です。リスクをコントロールするための第一の方法としては、取引数量を調整することが挙げられます。取引を行う際には、相場が逆行した場合の損失金額が許容範囲内に収まるように、取引数量を適切に設定しましょう。
・トレードルールに基づいて行動する
取引をする際には、「どうなったらポジションを持つのか」「どうなったら損切りするのか」「1回の取引における損失はいくらにするか」「ロット数はどう決めるのか」など、トレードルールを明確にしておくことが大切です。大失敗の原因には人間の感覚が関係します。それを排除するためにも、トレードルールに基づいて客観的に行動することを心がけてください。
 

 

投資で成功する上で、大きな失敗をしないことは必要条件といえるでしょう。上記を意識してリスクを抑えながら、安全に長く投資と付き合っていただければと思います。