順調に利益を出していたFX取引が一転
「まさか、こんなことになるとは……」
北海道在住の高橋正雄さん(当時58歳・仮名)は、パソコン画面を前に、ただ呆然と座り込むしかありませんでした。
高橋さんがFX取引を始めたのは2006年頃。退職後のゆとりを持った生活のため、年金以外で収入を得る手段を探していたときにFXと出会いました。老後用の貯蓄から取り崩した800万円を元手に、毎晩デイトレードをするようになった高橋さん。安定した成績とはいきませんでしたが、月間で数十万円の利益を出したこともあり、それなりに順調だったそうです。
しかし、2008年のリーマンショック相場に、大きな落とし穴が待っていました[図表1]。
「その日は米ドル円で取引していたのですが、いつもより大きく数万円の含み損を抱えていました。『すぐに戻るでしょ』という軽い気持ちで、ポジションを大きく持ち越してしまったんです」
翌朝、相場をチェックした高橋さんの顔が青ざめます。夜間に円高が大きく進行して、含み損が十万円以上に急拡大していたからです。慌てて損切りするタイミングを探りますが、ドル円相場はさらに下降を続けていきました。
「ここであきらめて決済すれば良かったんですが、少しでも損失を減らしたくて、ナンピン(追加取引で単価を平準化すること)でなんとかしようとしました。でも、その後はさらに円高が加速してしまって……。ポジションが大きくなったせいで損失はすごい勢いで増えるし、どうしようもなくなってしまいました」
損失が膨らんでいく恐怖心から、高橋さんは相場が気になって夜も満足に眠れない生活を送ることになります。そして、400万円近くまで損失が膨らんだところで、高橋さんはとうとう決済する決意をしたそうです。
「生きた心地がしませんでした」と語る高橋さん、これを最後にFX取引からは手を引いたとのこと。老後の生活資金として大切に貯めてきたお金を大きく減らすという、悔やんでも悔やみきれない結果となってしまいました。
資金半減に至った分岐点は?
高橋さんが資金を半減させてしまった主な要因は、次の2つの行動にあります。
・安易にポジションを大きく持ち越した
・損失が膨らんだところで無計画にナンピンした
ポイントは、「安易に」「無計画に」というところ。何かしらの根拠があったわけではなく、損失を確定させたくないという感情に流されての行動です。これは、相場が自分の思惑通りに動かなかったときにどうするのか、トレードルールを明確にできていなかったことが大きく影響していると考えられます。
また、当時はサブプライムローン問題によって欧米銀行が大きな痛手を受けるなど、市場は混沌とした状態にありました。これに対応して米国政策金利の引き下げが進んでおり、ドル安円高が進むシナリオも考えられたはずです。
そんな中で助かりたい一心で円安方向にポジションを膨らませたのは、リスクが大きい選択だったといえるでしょう。