株式会社は「株主」と「銀行」から資金を調達する
株式会社が活動するには「資金」が必要です。そこで、会社を設立するときに資金を出してくれた人には「株券」を渡します。株券を持っている人は「株主」と呼ばれます。
株券には、以下の3つのことが書いてあります。
●会社が儲かったら、配当という形で株主で山分けする
●会社が解散するときは、資産を売って負債(借金)を返し、残りは株主が山分けする
●株主総会で社長の選挙等に投票できる
株主に資金を出してもらう以外にも、銀行から借りる場合があります。銀行に渡すのは株券ではなく「借用証書」です。借用証書には、以下の例のような、3つの内容が書いてあります。
●100万円借りた
●1年経ったら返す
●金利は3%払う
株券と借用証書の最も重要な違いですが、借用証書には「会社が儲かったら」という単語がないことがあげられます。銀行は、貸した金を回収して金利を受け取るだけなので、会社が儲かるか否かは関係ないのです。後述のように、倒産すれば貸した金が返ってこなくなるため損をしますが…。
そこで銀行は、株式会社の社長人事には関心が薄くなります。悪人や無能でなければだれでもいい、と考えているわけです。一方で、株主は金儲けがうまい人を社長にしたいと強く願っています。そこで、株式会社の法律を作った人は、株主だけに社長選挙の投票権を与えた、というわけです。
株主は「儲け」を期待できる一方で、「リスク」も大きい
銀行は、会社が儲かっても損しても倒産しない限りは関係ありませんが、株主は会社が儲かれば大儲けできる一方で、会社が損した場合のリスクも大きなものがあります。
塚崎パン株式会社が100万円の資本金と100万円の借金で200万円分のパンを仕入れたとします。パンが220万円で売れれば、銀行に100万円返済して、残った120万円は株主のものになります。会社としては200万円が220万円になっただけなので、利益率は10%ですが、株主は持分が100万円から120万円に増えているので、20%の利益率となるのです。
一方で、パンが売れ残って傷み、手元に180万円の現金だけが残ったとします。銀行に100万円返済すると、株主の持分は80万円しか残りません。20%も減ってしまったわけです。
そうなる理由は、自分の金で買ったパンが高く売れても傷んでも自分の損益になることに加えて、銀行からの借金で買ったパンが高く売れても傷んでも、損益が株主のものとなるからです。
つまり、株主は大儲けが期待できる一方で、大損のリスクもある、ということになります。資本金が小さくて銀行からの借金が多い場合には、とくにそうです。
たとえば10万円の資本金と90万円の借金で100万円のパンを仕入れると、110万円で売れれば株主の持分が2倍になりますが、90万円しか残らないと株主の持分がゼロになってしまうわけですから。
銀行の心配は、株主有限責任に伴う貸倒損失
株主は、企業が儲かったら配当がもらえます。それなら、企業が大損して借金が返せなくなったら、企業の借金を株主が代わりに返すのでしょうか? 銀行としては、そうしてほしいと思っているでしょうが、法律はそうなっていないのです。
株式会社の法律を作った人は「会社は資産を全部売っても借金が返せない場合、残りの借金は踏み倒してもよい。銀行は株主に返済を要求してはならない」と決めたのです。「株主有限責任」と呼ばれています。そう決めた理由は2つあるようです。
1つは、零細な株主のところに突如として銀行から巨額の返済要求が来るのは可哀想だ、ということでしょう。企業が大損をする可能性があるか否かを調べるのは、銀行の方が零細株主より得意でしょうから、銀行はしっかり調べてから貸せばいいのだ、ということですね。
もう1つは、日本経済の発展を考えてのことです。「零細株主になると、銀行から突然巨額の請求書が来るかもしれない」と人々が考えるようでは、株式投資をする人がいなくなってしまい、株式会社が作れなくなってしまうかもしれません。そんなことでは日本経済が発展しなくなってしまうでしょう。
銀行としては愉快ではありませんが、法律ですから仕方ありません。自衛のために、貸出前に借り手企業の返済能力をしっかり調べるとともに、必要に応じて「担保」や「保証」を要求します。
担保というのは、借用証書に「我が社が借金を返済できない場合には、工場を勝手に売却して返済に使ってよい」といった文言を書き加えてもらうことです。借り手企業が借金全額を返済することができなければ、銀行全体としては損をするわけですが、担保を確保してある銀行は優先的に返済を受けられるので、担保を確保していない銀行が多めに損をする、ということになるわけです。
保証というのは、「借り手が借金を踏み倒したら、私が代わりに返済します」という手紙を受け取っておくことです。子会社が借金をする時に親会社が保証をすることが多いようです。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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