最低賃金1,002円は悲劇の始まり…。〈無策な賃上げ〉で「弱体化する日本企業」が“続出する”と言えるワケ

最低賃金1,002円は悲劇の始まり…。〈無策な賃上げ〉で「弱体化する日本企業」が“続出する”と言えるワケ
(※写真はイメージです/PIXTA)

政府が、最低賃金の全国平均を時給換算で41円引き上げ、1,002円とする目安を定めました。過去最大の上げ幅で、ついに1,000円の大台に乗りました。大台に乗ったインパクトは、確実に今後の賃上げムードを加速させるでしょう。企業は、原価上昇や物価高による買い控え等、苦しい経営状況の中で賃上げをしなければなりません。経営者にとっては非常に頭の痛い問題です。それでも経営者には、賃上げをしなければならない切実な理由があるのです…。本記事では、自身も経営者である米澤晋也氏が、その理由と「単なる賃上げ」の先に何があるのか、解説します。

単なる賃上げや福利厚生の改善はなぜ“ダメ”なのか

日本商工会議所が行った「最低賃金および中小企業の賃金・雇用に関する調査」によると、2023年4月に賃上げを行った中小企業は58.2%に上り、昨年同時期の45.8%から12.4ポイント増加したことが分かりました。そのうち62.2%が、賃上げの理由に離職や採用難に対する防衛を挙げていました。この結果から、人材確保に対する危機感が伺えます。

 

さらに、調査では、人手不足の対策として「働く人にとって魅力ある企業となるための対策」という設問があり、回答が多い順に次のような取り組みが並びます。

 

1.賃上げの実施、募集賃金の引き上げ(66.3%)

2.福利厚生の充実(38.2%)

3.人材育成、研修制度の充実(36.4%)

4.オフィス環境の向上、職場の環境整備(29.5%)

5.ワークライフバランスの推進(25.4%)

 

一見すると、どれも働く人にとっては魅力的ですし、自社の賃金や福利厚生等が世間の水準と比較し、あまりに低ければ離職や採用難を食い止める効果はあります。しかし、これらの施策を全面に押し出すのは危険です。

 

これらの施策を実施すれば、社員は少しの間は喜び、やる気になりますが、すぐに「あって当たり前」になり、効果を発揮しなくなります。

 

その理由は後述しますが、単なる賃上げや福利厚生の改善は、結果的にコストを増大させるだけで終わる可能性があります。それどころか社員は、さらなる充実を求め、経営者に要求するようになるかもしれません。

 

最も恐ろしいことは、働く動機が待遇に偏った人材が増えることで「企業の稼ぐ力」が低下することです。言うまでもなく、稼ぐ力を向上させない限り、継続的な賃上げは不可能です。

企業繁栄の原動力は「働きがい」にあり

これらの施策が、悲劇を招き得る理由を説明します。アメリカの臨床心理学者、フレデリック・ハーズバーグが提唱する「二要因理論」という研究知見があります。

 

「衛生要因」と「動機づけ要因」の2つの軸からなる理論体系です。

 

衛生要因とは、「対人関係」「賃金」「福利厚生」「労働環境」などで、これらが一定水準に満たないと不満足が生じ生産性が低下することがありますが、満たされても満足にはならず、生産性への貢献が少ない要因です。私は分かりやすく「待遇」と呼んでいます。

 

一方、「動機づけ要因」とは、「仕事に対する興味」「自分で決めることができる(任されている)」「貢献感」「成長実感」「チームで協働する愉しさ」などの「働きがい」を指します。

 

仕事からこうしたものが得られると、仕事そのものから喜びを得られ、モチベーションが高まるとともに、豊かな創造性を発揮します。

 

経営には、衛生要因と動機づけ要因の両方が必要です。企業の稼ぐ力を高めるためには、ある程度、衛生要因を整備したのちに、動機づけ要因にフォーカスすることが重要です。

 

日本商工会議所の調査項目に対する回答の上位5つはどれも衛生要因に関するものです。これらをあまりに強調すると、既存社員の意識が衛生要因に偏ると同時に、採用時に、それに関心が偏った人を集めてしまいます。衛生要因に惹かれて入社した人は、その会社に入ることがゴールで、入社したら守りに入る傾向があります。自発的に動かないので、アメとムチの使い分けをせざるを得なくなり、マネジメントが複雑になり、管理コストも増大します。

 

最低賃金が大台に乗ったことで、世間の意識は衛生要因に偏ります。そんな時だからこそ、経営者は動機づけ要因にフォーカスする必要があると私は考えるのです。

次ページ働きがいを高めるために整備すべき「5つのこと」

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