FIREを実現するために必要な元手は?
「FIRE」という言葉をご存じでしょうか? Financial Independence, Retire Earlyの略で、資産運用で得られる利息や配当といった不労所得で生活を支えていき、「経済的自立」と「早期リタイア」を実現させよう、とすることです。しかし、利息や配当を得るための元手となる資産が必要です。FIREを実現するためには、いったいどのくらいの資産を作らないといけないのでしょうか?
FIREに必要な目標金額の基準として「4%ルール」というのがあります。年間に必要な支出額の25倍の運用資産を築いて、それを年率4%で運用していけば運用益だけで生活できるという考え方です。
たとえば、年間の支出が400万円であれば1億円、500万円であれば1億2,500万円の資金が必要になります。もし、1億円の資産を運用し、毎年4%の運用益400万円を得てそれを生活費としていけば元手の1億円は減らすことなく生涯暮らしていける、という考えです。
たしかに働かずに生活できるかもしれませんが、一般人が1億円貯めるのはなかなか大変ですし、貯まったあとも減らさない努力が必要となります。万が一、元手を減らしてしまった場合、翌年から受け取る運用益は減ってしまうことになります。1億円を貯めるまでと貯まったあとも贅沢な暮らしはできず、一生節約に追われるような人生になりそうな気がするのは筆者だけでしょうか。
FIREの落とし穴
このFIREの考え方にはいくつかのデメリットがあります。
まずひとつ目は税金を考慮していないことです。運用益には課税されますし、もし税金分も含めて400万円と設計したとしても将来増税になる危険性もあります。
それにいま、FIRE族のような資産を持つ人が最も怖いのは「財産税※」の導入ではないでしょうか。
※財産税:終戦処理に必要な国庫収入を確保するため、戦後所得の没収を狙いとし、昭和21年に新設された1回限りの租税のこと
格差が広がっている日本では消費税率も簡単に上げることができない状況になっており、国民感情は「お金持ちから取ってくれ!」という流れになっています。もし、戦後に実際に導入された財産税(資産税)が復活することになると、FIRE族をはじめとする資産を元手に生活している人達の計画には大きな狂いが生じてきます。
FIREまではいかなくても5,000万円の資産ができたことで45歳で早期リタイアし、1人で田舎暮らしを始めて5年になる独身のBさんのケースをご紹介しましょう。
資産運用に成功し早期退職した44歳・Bさん
月収95万円で証券マンとして働いていたBさんは都会での生活に疲れてしまい、預貯金や相続でできた資産を元手に44歳で田舎暮らしをすることを決めました。300万円ほどで土地付きの古い一軒家を買って自分で改修しながら、畑を作って自由に暮らしていました。FIREと違うところは運用益だけで暮らすのではなく、子どもがいないため財産を残す必要もないことから資産を取り崩すことも視野に入れて生涯計画を立てていたことです。
ですが、そんなBさんに予想以上の「物価の上昇」が襲います。野菜も自分で作っていますし、都会暮らしに比べて生活費もほとんどかからなかったのですが、やはり昨年からの「値上がり」には困っているようです。
「簡単な野菜は自分で作っていますが肉や卵なんかは買っていますからね。電気代の値上がりも気になりますが、いまはガソリン代の値上げが心配かな。街まで出るのに車を使っていますし、距離も結構あるんですよ」と言います。
ガソリン代は11週連続で値上がり(7月31日時点)が続き、これは原油価格の高騰だけでなく石油元売り会社に支給している補助金の段階的縮小も原因です。さらにこの補助金は2023年9月末で終了する見通しから10月以降のさらなる値上がりが懸念されています。電気代やガソリン代の値上がりは、商品等の値上がりにも大きく影響してきます。資産を増やすことができずに取り崩すだけのリタイアしてしまった人の生活に、値上がりは頭の痛い悩みですね。
さて、FIREにはアルバイト等で収入を得る「サイドFIRE」というものもあります。自由な生活を続けながら少しだけ仕事をしよう、というものですが、そもそも仕事を辞めたくてFIREを選んだ資産家である人たちがどんなアルバイトをするのか、も疑問ですし、仕事を辞めて年数が経ってしまった人たちの再就職はかなり難しくなっているはずです。
今後、なにが起こるか予想できない時代になってきましたので、仕事を辞める場合は慎重に検討するようにしましょう。
川淵 ゆかり
川淵ゆかり事務所
代表