製造業主体からサービス業主体へと変化する経済構造
中国政府の発表するGDPは信用できない、ほんとうの成長率や経済規模は、公表されている数値よりはるかに低いという議論が最近目に付く。
これまで中国経済はエネルギー消費が大きい製造業主体で、エネルギーの70%以上を占める石炭の輸送は、半分以上鉄道に依存していた。このため、鉄道輸送量や電力消費量が、銀行融資額と並んで「李克強指数」と呼ばれ、GDPとこれら指標の動きがかい離すると、「李克強指数」が景気の実態を示すとして注目されてきた。
しかしかい離の背後には、GDP単位当たりエネルギー消費の低下(2015年5.6%減、16年上期5.2%減)、輸送手段の多様化、サービス業のウエイト増(2016年上期、対GDPシェア54.1%)といった構造要因がある。最近、李首相は「失業率、都市・農村の収入伸び、構造改革の進捗」をより重視すると発言、中国ではすでにこの「新李克強指数」に関心が移っている。
サービス業は雇用吸収力も高く、景気減速下の2015、16年、都市部雇用創出目標(いずれも1000万人)に対し、15年は1312万人、16年上期もすでに717万人と目標を超過達成する勢いだ。サービス業就業者の割合は15年42.4%、10年から7.8%ポイント上昇、2次産業就業者割合より13.2%ポイント高い。
中国ではなお伝統的なサービス業が主で、経済発展段階が同等の他の経済に比べ労働生産性が低い(例えばマレーシアの49%、タイの82%)、国際競争力が弱い(金融など知識集約型サービスの輸出が全サービス輸出に占める割合は、2011年、米国の12.7%に対し中国は0.5%)などなお多くの問題を抱えるが(6月23日付智庫観察)、それは伸びる余地が大きいことも示している。
地方GDPの合計と全国GDPの乖離は縮小傾向
各地方政府が発表するGDPの合計が中央の発表する全国GDPを大きく上回る「打架(喧嘩)」現象は、中国内でも何年も前から問題視されてきた。2015年かい離額は4.8兆元、全国第4位の浙江省経済規模4.3兆元を上回る。16年上期も、全国GDP34.06兆元に対し、各地方GDP合計は34.72兆元(8月26日付網易新聞)、約6500億元上回るもようだ(2015年上期は2.7兆元)。
実はこうした現象はかつて米国でも見られた(2009年州政府GDP総額14.49兆ドル、全国GDPを3700億ドル上回っている:曽澍基「GDP統計的弔詭:中美印比較」個人ウェブサイト、2014年8月)。地域をまたがる経済活動が関係する省市区で重複して計上されていることが大きいが、中国での問題の本質は、重複計上の背後に、地方政府がGDPの数値を偏重し、重複計上する傾向が強いという体制要因があることだ。
ただ、かい離率はこのところやや縮小傾向にある。GDPで英雄を語る「以GDP論英雄」を排する習近平政権の方針が多少とも地方に浸透し始めたのか、本問題はそうした観点から今後の状況を注視していくべきだ。