経済構造の変化に統計手法が追いついておらず、GDPを競い合う地方行政の姿勢などの問題もあって、中国が発表するGDPには疑念の声があります。中国のGDPは本当に「デタラメ」なのか。そして、実態と合わないとすればその原因はどこにあるのかを、中国経済の専門家が検証する記事の後編です。

新しい経済構造に適した統計手法を模索

中国政府は2016年、その政府活動報告で初めて「新経済」という概念を提示し、注目された。国家統計局幹部は7月、「中国経済の成長と循環」と題するハイレベル論壇で、環境、情報、ハイテクなど「新経済」分野の発展が統計面にも大きな挑戦をもたらしているとしている(16年上期工業生産額全体伸び6%に対し、ハイテク製造、装備製造伸びは各々、10.2%、8.1%増)。

 

 

例えば中国でも個人が基本の「分享経済」、シェアエコノミーが拡大する中で、主として法人や個人企業を調査対象とする伝統的統計手法は不十分であること、商業形態面でも、企業広告収入を基にしたネットでの無料・廉価販売の拡大が、個人最終消費支出を過少評価しているとし、これらの面での改善が課題だとしている。国家情報センターは、2015年分享経済の規模が1.95兆元、参加人数5億人以上、今後5年間、年平均約40%の伸びで拡大し、20年にはGDPの10%以上の規模になると予測している(7月5日付第一財経社説)。

 

統計局によると、現在、新興産業、新型業態、新ビジネスモデルの「三新」について、国際機関の検討も参考にしつつ、付加価値計算方法や統計分類標準の見直し作業を始めたところだ(7月2日付第一財経)。中国でも、経済構造の変化が統計整備を促す原動力になっている点に変わりはない。

中国GDPの水増し論は「一面的」な主張

中国経済否定論者は、当然ながら、GDPが水増しされていることを強調する傾向が強い。しかし、上記「新経済」との関係で、国家統計局は一部GDP計算に漏れが生じており、むしろ公表GDPは過小評価になっている可能性を示唆、さらに7月、国際標準に従って研究開発支出を中間消費ではなく固定資本形成として遡ってGDPを改訂、2010-15年GDPは年4〜9千億元増加した。この他、以下のような点を考慮する必要がある。

 

①中国では以前から、把握されない「灰色所得」の存在が大きい。この方面の研究で有名な中国改革基金会国民経済研究所推計では、2012年の灰色所得は6兆元以上、当時のGDPの約12%の規模に及ぶ。その存在自体は所得分配や徴税面での不公正などの深刻な問題を惹起しているが、GDP規模に関する限りは、いびつな形ではあれ、実際の経済規模がその分大きいことを示唆している。

 

②GDP統計以外のマクロ指標の動きは一様ではない。例えば2016年上期GDP統計では、2次産業工業部門の付加価値額の対前年同期比は名目3.5%、実質6.1%だが、別途工業生産統計では名目6%、仮に工業製品出荷価格指数(PPI)▼3.9%をデフレーターにすると、実質伸びは9.9%とGDP統計の1.5倍以上になる。GDP統計2次産業建設部門名目5.8%増、実質7.5%増に対し、別途固定資産投資、不動産投資統計では各々名目9%、6.1%、実質11%、8%だ。GDP統計3次産業卸小売部門伸びは名目22.9%、実質6.2%、別途小売販売高統計では名目10.3%だが、仮にCPI対前年同期比2.1%をデフレーターにすると、実質は8.2%とやはりGDP統計を上回る。

 

むろんこれら統計をもってGDPが過小評価されていると主張することはできないが、逆に悪い指標のみに着目して、公表GDPが過大だとする主張も一面的で説得性がない。こうした1次統計とそれを基に加工したGDP統計の動きが必ずしも一致しないことは、日本も含め通常諸外国でも見られる。むしろ、その原因を探ることで先に進むことができる。

中国GDPは信用できないのか、答えは簡単ではない。ただ、自ら地道に原情報を収集し冷静に分析することで、様々な側面が見えてくる。

 

 

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