住民税非課税の高齢者世帯は「およそ3割」
居住する都道府県や市区町村に納める「住民税」は、公共サービスの運営費用として徴収される。一定の収入を超えると課税されるが、未成年者、障害者、寡婦、ひとり親で前年の合計所得金額が135万円以下の人、生活保護受給者などは非課税だ。
厚生労働省の『2021年 国民生活基礎調査』によると、全世帯5,142万世帯のうち、住民税課税世帯は3,942万世帯であり、住民税のかからない世帯は、およそ1,200万世帯となっている。
年齢が高くなって所得が伸びていくと、住民税の非課税世帯は減少していくが、50代を境に再び増加し、世帯主が65歳以上になると34.6%が、75歳以上になると41.9%が住民税非課税世帯となる。
◆世帯主の年齢別「住民税の非課税世帯」の割合
~20代:23.50%
30代:11.30%
40代:8.90%
50代:10.40%
60代:20.70%
70代:33.10%
80代~:44.10%
出所:厚生労働省『2021年 国民生活基礎調査』より
高齢になるほど「年金生活者」が増えるわけだが、それに伴い、住民税の非課税世帯も増えていく。同調査によると、公的年金を受給している高齢者世帯のうち、約1/4は所得に占める公的年金の割合が100%、33.3%が80~100%未満となっている。
◆高齢者世帯の所得における公的年金の割合
20%未満:3.6%
20~40%未満:8.4%
40~60%未満:14.0%
60~80%未満:15.9%
80~100%未満:33.3%
100%:24.9%
出所:厚生労働省『2021年 国民生活基礎調査』より
年金は「雑所得」扱いで、公的年金であれば「公的年金等控除」という控除が受けられる。65歳以上であれば110万円、また前年の合計所得金額が市区町村の条例で定める金額以下(下記は東京23区内の場合)なら、住民税の均等割りが非課税になる。しかし、この金額を上回ると課税されることになる。
★単身者…45万円以下
★扶養のある者…「35万円×(本人+同一生計配偶者+扶養親族数)の人数+31万円」以下
住民税がかかるボーダーライン…現役時代の「給与額」は?
上述の計算式に当てはめると、65歳以上の場合、下記が住民税の課税・非課税のボーダーラインとなる。
単身世帯:110万円 + 45万円 = 155万円
夫婦世帯:110万円 + (35万円 × 2 + 31万円) = 211万円
では、年金が「年211万円以下になる人」の場合、現役時代の給与額はどの程度なのだろうか。逆算してみよう。
国民年金が満額支給なら、2023年4月(6月支給分)から6万6,250円。また会社員や公務員などが対象となる厚生年金は、加入期間が2003年3月までは①「平均標準報酬月額(≒平均月収)×7.125/1000×2003年3月までの加入月数」、加入期間2003年4月以降は②「平均標準報酬額(≒平均月収+賞与)×5.481/1000×2003年4月以降の加入月数」で計算できる。
大卒で就職し、60歳定年まで働いたサラリーマンの場合、国民年金が満額支給なら、厚生年金部分は131.5万円以下になるはずだ。
便宜上②の式でのみ使って考えると、32等級ある平均標準報酬額のうち29等級以上、標準月額54.5万円以上だと、このラインを超えることになる。また、平均的な賞与を手にしているとすると、大卒サラリーマンは月収で42万円以上あると、211万円のラインを超える可能性が高い。
なお、これは「夫婦世帯で世帯主の所得」に限ってのことである点にも注意が必要だ。世帯主の所得が211万円以下、かつ妻(夫)の所得が155万円以下でなければならない。
「年収211万円の壁」を境にすると、手取り額にして1年で約6万円の差が生じるといわれている。また、住民税非課税世帯であれば、健康保険料や介護保険料の負担が減るというメリットもある。これらの点から、「なんとか〈年収211万円の壁〉を超えないようにしたい」と考える人もいるだろう。
たとえば、年金の繰上げ受給という方法がある。65歳から受け取れる年金だが、1ヵ月受け取りを早めるごとに0.4%減額され、満60歳で手にすれば30.0%減額される。しかし、一度減額されると、この減額率が生涯続く。また、住民税非課税限度額の壁は、居住地域によっても異なるため要注意だ。いざ年金を受け取る段になってから「何かの間違いでは!?」と慌てても間に合わない。
長い老後生活を思えば、「210万円」と「211万円」の差はかなり大きいといえるかもしれないが、だからといって、帳尻を合わせるために汲々とするのもいかがなものか。
むしろ、シニアになってからも就業や投資で収入を確保し、このレベルの金額で「損した」「得した」と嘆くことのない生活を送りたいものだ。
そのためにも、現役世代のうちから具体的な老後をイメージし、資産形成やスキルアップに努めることが大切ではないだろうか。
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