しかし、旦那様のご両親は自宅から1時間ほど離れた霊園に墓を購入したので、そこに埋葬したい、の一点張り。
実は、旦那様のご両親は結婚当初から何かにつけて圧が強く、旦那様とご両親も折り合いが悪かったそうで、そのため佳奈さんと旦那様のご両親も折り合いが悪いとのことでした。そして、旦那様の生前から、夫婦揃って旦那様のご両親を避けるように過ごしていたと話しました。
そんなご両親が、旦那様の逝去後、佳奈さんの家に連絡もなしに頻繁に訪れ、「息子の骨は私達が買ったお墓に入れてくれ!」と詰め寄られることが日常茶飯事となっているとのこと。
「両親のしつこい物言いに正直どうしていいかわかりません。誰にも相談もできず、困っています……」と佳奈さんは涙を流しながら話しました。
佳奈さんの話を聞いて、私はなんとも胸が締め付けられる思いになりました。
最後の手段だった「分骨」を快く行なった理由
そこで私は、佳奈さんの代理人として旦那様のご両親と話し合いに決着をつけるべく、動き出しました。
本来、祭祀の権利は奥様である佳奈さんにあるので、お墓をどこにするかは佳奈さんが決めることができます。
そしてその権利については、家庭裁判所で裁定を求めることも可能です。しかし、これを実行するには数年の年月がかかってしまうというデメリットがあります。
「両親とのやり取りにはもう疲れ果ててしまいました。早くこの問題に終止符を打ちたい」(佳奈さん)
佳奈さんと彼女の義理の両親が円満に話し合いを終えるためには、どのように進めればよいのでしょうか。そのことを思案しながら、佳奈さんと何気ない会話をしている最中、彼女がふとこんなことを言いました。
「あまりにも主人の両親からしつこく言われるので、分骨も考えています。それは最悪の手段としてですが」
「分骨ですか…」そもそも、遺骨を複数箇所に分けて埋葬することは許されるのか、遺骨は分散させて良いものなのでしょうか。
そう疑問に思った私は、お寺の住職に「遺骨を分骨し、それを埋葬しても問題ないのでしょうか?」と質問しました。
すると、住職から意外な回答が返ってきました。
「ブッダの遺骨も世界各地に分骨されたとされています。遺骨をお参りしやすい場所などに分骨する方も多く、それは故人を偲ぶことや仏縁を称える意味合いで、仏教的に問題のある行為ではないと考えられます」
その言葉を聞いた私は、「解決策はこれだ」と確信しました。これなら佳奈さんと義理のご両親の双方の思いを尊重しながら、問題解決に向けて動けます。そう確信した私は、すぐに佳奈さんに連絡しました。
佳奈さんに住職の言葉を伝えると、「それなら、主人も多くの人に偲んでもらえて喜んでくれるでしょう」と明るい声で話してくれました。
気づけば季節が移り、川辺には桜の花が美しく咲き誇っていました。
あれほど対立していた納骨問題についても、ブッダの話を伝えることで、ご主人のご両親も分骨を快く承諾しました。今、ご主人は佳奈さんと生前決めていたお墓と、ご両親が用意したお墓で安らかに眠っています。
こうして佳奈さんは、亡くなった旦那様の納骨問題を無事に解決することができました。
その年の佳奈さんからの暑中見舞いには、「主人の遺骨問題が解決し、穏やかな日々を過ごしています。主人の両親との関係に煩わされることなく生活することができ、本当に嬉しく思います」と書かれていました。