白内障手術のベストタイミングは「生活に支障を感じたら」
白内障の多くは、急ぐ病気ではありません。白内障手術はご本人の意思でタイミングを決められますし、希望すれば、進行していなくても手術を受けることもできます。ただし、白内障はあまりにも進行してしまうと、手術に必要な目の検査データが取れなくなったりして、手術の精度が落ちてしまうことがあります。ですから、タイミングはとても重要です。
では、白内障手術を受けるには、いつがベストかというと、一般的には「日常生活に不便を感じるようになってから」で良いと思います。白内障は進行していきますから、最終的には、どなたも長生きする限りは手術が必要になります。年齢でいうと、あくまで目安ですが、65歳ぐらいになったら手術を検討していい年代です。
ライフスタイルや目的によっても早期手術がおすすめ
細かい作業が多い方や趣味や仕事でパソコンをよく使う方は、ちょっとした見えづらさも支障となりやすいため、手術時期は早いほうがよいです。運転する方も同様です。運転免許の書き換えには、矯正視力0.7以上が必要です。逆に、普段家のなかで過ごすことが多く、細かい文字はあまり見ないという方は、あわてる必要はありません。
また、メガネやコンタクトレンズに頼らず裸眼生活をしたい、スポーツを続けたい、老眼を治したいといったご要望があれば、早めの手術を勧めることもあります。ほんの20年ほど前に比べると、眼内レンズの品質は随分向上しました。現在はプレミアムレンズといって、乱視矯正眼内レンズや、多焦点眼内レンズなど、付加価値をもったレンズが出てきており、早い段階で白内障手術を受けられる方も多くなっています。
いずれにしても、手術は目的をもって行うことが大事です。患者さん自身が、「どんな結果を得たいのか」「治したいことがあるのか」という点がとても重要です。「見えにくい生活から解放されたい」「日常生活が送れる視力があれば十分」という方もいれば、「ずっとメガネをかけ続けてきた人生だったので裸眼でものを見てみたい」「年齢を重ねても、スポーツを続けたい」「運転免許の更新に視力の維持が必要だから」等々、患者さんの希望を叶えるために、医師はさまざまな情報提供をし、選択肢を提示します。僕が最初の診察に最も時間をとることにしているのは、そうした背景もあります。
手術を受けられる前に、ご自身が「何のために白内障手術を検討しているのか」について、もう一度振り返ってみることをおすすめします。
「手術を急いだほうが良いケース」は主に7つ
白内障は、基本的には手術を急ぐ必要はありませんが、なかには急いだほうが良いケースもあります。
【①年齢が80歳以上である・白内障が進行しすぎている】
手術の前には問題なく手術ができるかどうかを調べるために、いくつかの検査を行います。検査データによって、視力は良くも悪くもなりますし、合併症を減らすことにもつながります。つまり、手術の結果を左右する検査は、とても大事な要素です。
なかでも白内障手術の結果に大きく影響するのが、眼内レンズの種類や度数を決めるための検査です。ほんの数年前は「また見えるようになればよい」程度だったのが、今はより良い見え方を追求する方向へと格段に手術のレベルが上がってきています。よって検査では、眼の状態を精密に計測し、患者さんの求める見え方と、眼内レンズの種類や度数を高精度で決定していきます。
このとき、あまりにも白内障の症状が進行してしまっていると、目のデータが正確に測れない場合があります。結果、眼内レンズを入れた際に、度数のズレが生じる可能性が高くなります。ですから、進行しすぎないうちに手術を受けるということも、実は大切なことです。
【②メガネをかけても視力が両眼で0.7以下である】
普通自動車免許では、「両眼で0.7以上、かつ片眼でそれぞれ0.3以上であること(メガネ等による矯正視力も可)」が条件です(2021年5月時点)。運転をする方で、これを下回っている場合は、白内障手術を検討します。
【③老眼を治したい】
老眼は、加齢が原因で水晶体が硬くなったことによって起きます。水晶体が厚みを変えられなくなり、ピント調節が困難になるのです。白内障手術は、副次的な効果として老眼治療が期待できます。
ただ、まだ老眼がそれほど進んでいない方には、反対に近くが見えにくくなる場合があります。目がかすむ、まぶしいといった自覚症状がなければ、早急な手術はおすすめしていません。
【④水晶体の核がどんどん硬くなっていく「核白内障」】
「核白内障」は、進行すると手術が難しくなっていきます。手術中に合併症が起こるリスクも高くなりますので、早い段階での手術をおすすめします。核白内障というのは、水晶体が中心から濁ってくるタイプの白内障です。水晶体が硬くなって、光の屈折が変わるため、老眼が一時的に治って近くが見えやすくなることがあります。
【⑤遠視の方】
水晶体は、加齢によって厚みが出てくるため、目の虹彩という部分を圧迫する可能性があります。これが緑内障の発症に関わることがあります。遠視の方はもともと眼球が小さい(短い)ため、虹彩や隅角といわれる水晶体の前方部分が圧迫されやすく、緑内障のリスクが高いといえます。
緑内障にはいくつか種類があり、そのなかに「閉塞隅角緑内障」というものがあります。これは、房水が排出される隅角という場所が閉塞してしまうことで発症する緑内障です。房水とは眼球のなかを満たしている水分のことで、眼球のなかでは常に一定の房水が作られ、同時に排出されることで眼球のなかの圧が一定に保たれるようになっています。この房水の排出が閉ざされてしまうと、眼圧が上昇し、視神経が障害を受けて緑内障が起きてしまうのです。
白内障手術は水晶体を取り除く手術なので、虹彩への圧迫を解消することができます。結果として、緑内障の予防になるというわけです。完全に隅角が閉塞しきってしまうと、急激に眼圧が上昇して「急性緑内障発作」を起こすことがあります。白内障手術は、この緑内障発作の予防にもなります。
以上の理由から、遠視の方には、早めに白内障手術を勧めることがあります。遠視の方は年齢とともに手元が見えにくくなる方が多いため、術後は手元が見えやすくなり満足度は比較的高いです。
【⑥強度近視】
強度近視の方が白内障手術を受けると、強い近視が改善され、度の強いメガネから解放されます。裸眼で生活できる時間も増えるので、「もっと早く手術を受けておけばよかった」とおっしゃる方が少なくありません。
【⑦緑内障やほかの眼の疾患がある場合】
糖尿病やアトピー性皮膚炎がある方は、白内障の進行が早くなります。糖尿病の人は糖尿病網膜症を、アトピー性皮膚炎の方は網膜剥離を併発していることも多いため、定期的に眼の検査をして、水晶体や網膜の状態をチェックする必要があります。アトピー性皮膚炎では、若い年代で白内障手術が必要になる場合があります。糖尿病の方は、網膜症の病状によって手術を早めるかどうか検討することになります。
ほかには、緑内障手術や硝子体手術など、ほかの眼科手術を行うときに、同時に白内障手術が行われることがあります。従来行われてきたこの方法には、注意が必要です。水晶体を一度取ってしまうとピント調節が失われます。手術を2回に分けてでも、水晶体を温存したほうが良いケースもあります。医師に技術があれば、そうすることは可能であるにもかかわらず、硝子体手術をするのに水晶体が邪魔になるからという理由(つまり医師の都合)で、白内障手術が同時に行われてしまっているのが現状です。目の手術の際には、主治医によく確認しておく必要があります。
「もう少し早く手術を受けていたら…」というケースは多い
このようにさまざまなケースがあるため、手術のタイミングは、白内障手術の経験豊富な医師とよく相談して決めることが大切です。長年、目薬での治療を続けている方も時々いますが、そもそも手術を行っていないクリニックの医師では、手術の適切なタイミングをアドバイスすることは難しいです。経過を見ていくにしても、白内障手術を行う医師に診察をしてもらうほうが安心です。
すぐに手術をしないまでも、白内障が進行してしまう前に眼の検査データだけでも取っておくという方法もあります。また、視力検査では問題がなくても、白内障が原因で外の光がまぶしくてしかたがない、ものがダブって見えて気持ちが悪いなどといった症状が出ていることもあります。見え方で気になることがある場合には、一度、白内障手術を行う眼科で相談することをおすすめします。
これまで数多くの目を手術してきましたが、もう少し早く手術を受けていたら、もっと良い手術ができたのにと思うことや、もっと良い成績(視力を出すという意味)を出せただろうにと感じるケースは少なくありません。
白内障手術を先延ばしにするメリットが唯一あるとすれば、今後、眼内レンズの性能がさらに進化する可能性があることです。白内障の進行がそれほどでもなく、ほかに目の病気もなく、待てる人にとってはそれでもいいかもしれません。
ただ、早く手術すれば、裸眼で生活できる時間が長くなります。加えて、眼内レンズの選択肢が増えたり、視力調整にも良い結果が出たりと、メリットも多いのです。
中原 将光
中原眼科 院長