(※写真はイメージです/PIXTA)

白内障手術は簡単、安全にできるようになったといわれますが、だからといって「どの医師や病院にまかせてもいい」と考えてはいけません。白内障手術の成否は「医師選び」が9割。後悔しないために知っておきたい、医師・医療機関の選び方を見ていきましょう。

白内障手術は「医師選び」が9割

手術の成否は「9割は医師選びで決まる」と言っていいくらい、執刀医と医療機関は慎重に選んでほしいと思います。正直なところ、執刀医による知識と技術の差は大いにあるといえます。

 

患者さんはあまりご存じないことが多いのですが、白内障手術は、濁ったレンズを取り除き、人工のレンズに入れ替えれば成功という評価になります。いい換えると「視界が明るくなれば合格点」ということです。こだわりのない患者さんは、見え方が多少希望通りにならなくても「こういうものか」と思うかもしれません。

 

通常、白内障手術は生涯に一度行えば十分ですから、患者さん側には医師の技術やレンズの使い勝手を比較する機会がありません。大きなトラブルがなければ、手術は成功となり、手術後の目で残りの人生を過ごすことになります。

 

日本には国民皆保険制度があり、白内障手術は保険診療で受けることができます。保険診療の範囲内であれば、どの医療機関で手術を受けても、手術にかかる費用は同じですし、建前上は標準的な治療が受けられるようになっています。ならば、あなたの目のこと、そして術後の生活や人生までを一緒に考えてくれ、提供し得る最善の手術をしてくれる医師を選ぶべきです。

 

保険でも最良の手術はできます。新しい目に生まれ変わるという意味でも、患者さんはその先の人生を医師に託すのですから、患者さんには「現時点でのベストな手術」を提供したいと僕は考えています。医療機関や執刀医を選ぶ際のポイントは次のような点です。

 

●日常的に白内障手術をこなしているか

●新しい機械を積極的に導入しているかどうか

●医師が眼内レンズの知識を十分に有しているか、レンズの品ぞろえはどうか

 

眼科医とひと言でいっても、まぶた、角膜、結膜、ドライアイ、視神経、白内障、緑内障…、とさまざまな専門分野があります。また、手術を行う医師、手術をしない医師がいます。そのうち、白内障手術だけを行っている医師もいれば、僕のように最も難易度の高い網膜硝子体手術を専門とし、白内障手術と網膜硝子体手術を同時にこなす外科医もいます。

専門分野が「網膜硝子体」なら間違いなし

一つはっきりと言えることは、網膜硝子体分野が専門のドクターは、白内障手術を行う医師のなかでも一線を画しています。眼科手術のなかでも最も神経を使う分野であり、白内障手術でトラブルが起きたときなどは、網膜硝子体手術の知識がないと対応できないことがあります。経歴を見たときに、網膜硝子体分野を専門に掲げているドクターは、実力も知識も十分にあるといえるのです。

 

開業までの2年間ほどフリーランスの眼科外科医でしたが、手術の依頼が途絶えませんでした。それはなぜかというと、やはり手術を安心して任せられる技術があり、難しい目の手術が必要になったときや、予期せぬトラブルが起きた場合に再手術を引き受けられる外科医が少ないからです。

「医師選び」はとにかく慎重に

白内障手術は、簡単に安全にできるようになったといわれていますが、本来は熟練した眼科医が、高度な手術機器を駆使して、顕微鏡を見ながら行う大変繊細な手術です。手術時間が長くなればなるほど、目にかかる負担が大きくなりますので、スピード、すなわち大胆さも必要です。白内障手術には、眼科手術のすべての技術が詰まっているといっても過言ではありません。

 

手技の違いによって生まれるほんの小さなズレ、例えば傷口の差が、術後の炎症反応や感染リスク、見え方のズレなどに影響することも少なくありません。また、ほかの目の病気を合併している場合や進行して水晶体の核が硬くなっている白内障など、扱うのが難しい目であればあるほど、手術の際に精密さや判断力が求められます。

 

さらに、白内障手術を担当する医師は、眼内レンズの度数設定や視力矯正について十分な知識が求められます。レンズにもメーカーによる特徴の違いなどがあるため、最新のレンズのことも含めて情報をどれだけもっているか、眼内レンズを扱った経験がどれくらいあるかが、術後の患者さんの満足度に影響することは間違いありません。

 

フリーの眼科外科医だった頃は、白内障手術のやり直し手術も多くこなしていました。「もっと精度が高い手術が提供できたのに…」と思うことも、正直たくさんあったのです。執刀医の手先の器用さなどは、見た目では分かりません。ですが、白内障手術をどれだけ経験してきたかという手術件数や専門分野などは、執刀医を選ぶうえで、目安になるポイントといえます。

 

加えて、検査から手術まで、白内障手術にはさまざまな機器が使われます。白内障手術において、機器の性能は手術成績や術中の痛みなどに関係しますので、非常に重要です。

 

例えば、僕のクリニックには、白内障の手術機器に「センチュリオン・アクティブセントリー」という最新機器を導入しました。これを使えば、目の中の圧を20mmHg(ミリメートル水銀柱)という低い圧で手術を行うことができます。通常の機器では60~80mmHgと非常に高い圧をかけて手術をするため、強い痛みが出やすくなります。後者の手術機器で何か問題が起こるというわけではありませんが、誰のための手術なのかと考えれば、痛みを軽減できるほうが望ましいといえます。そこに投資できるかは、医療機関や医師の考え方で変わってきます。

 

顕微鏡にも最新機器を採用しました。患者さんの目に当てる光を通常の80%減らし、かつ非常に詳細な部分まで見える、現時点で最高性能の顕微鏡です。この顕微鏡を使うことで、患者さんの目への光障害が少なくでき、さらにより繊細でキレイな手術が可能になります。難点は、金額が高すぎるということです。1台で通常の機械が5台買えてしまうような金額になりますので、日本全国でも十数台しか普及していません(2021年5月時点)。

 

どのような機器を使っているか、患者さんには見えにくいところですが、医療機関のWEBサイトに詳しく記載されていることもあります。医師のこだわりが伝わってきます。

 

とにかく、医師選びは慎重に行うことが重要です。患者さんには、すべて医師にお任せではなく、「自分の希望に応えてくれるかどうか」という視点をもち、信頼できる医師を選んでいただきたいです。 

 

最高の診療と技術を提供できる自信がありますが、手術を受ける際、納得して執刀医を選んでほしいので、セカンドオピニオンを受けることも賛成です。患者さんご本人が高齢になり、自分で判断がつかない場合には、ご家族がセカンドオピニオンに付き添うなどしてサポートしていただきたいと思います。

よくある「大学病院のほうがレベルが高い」という思い込み

「手術は、大きな病院のほうが安心ですか?」

 

患者さんからよく聞かれる質問です。大学病院は設備が立派で重鎮のドクターが勢ぞろいしている、というイメージをもっている方は意外にも多いようです。

 

僕は、時々患者さんから「先生が執刀するんですか?」と聞かれることがあります。「若造」に見えるということかもしれませんね。ちなみに、医師として最も脂ののった40代です。アスリートの最盛期が20代前半ならば、眼科医として、ベストパフォーマンスが出せる最高の時期だと自負しており、この年齢で開業したのも満を持してのことです。

 

眼科領域のことでいえば、患者さんの想像とはむしろ逆です。大きな病院よりも、個人経営のドクターの方が最新機器に詳しく、高い技術とともに最高の機器をそろえていることが多いといえます。

 

一般的に大学病院は年間の予算が決まっているため、最新の機器を医師が好きなだけ導入できる環境ではありません。手術用の機器や装置は一台一台の値段が高く、大きな病院が常に最新の機械を取りそろえようとすれば莫大な費用がかかります。そのため、古い機械を使い続けている大学病院も珍しくありません。

 

一方、個人経営のクリニックでの設備は、院長の考え次第とも言えます。料理人が包丁一本にとことんこだわるのと同じように、スゴ腕サージャンと呼ばれるドクターのなかには、僕をはじめ機械オタクが結構います。最高の腕をもった職人だからこそ、最高の道具を使って最高の技術を提供したい。少なくとも僕の場合は、その気持ちがとても強いです。

 

また、大病院では、診察する医師と執刀医が異なるケースもありますが、担当医が一人のプライベートクリニックであれば、一人のドクターが責任をもって術前から術後まで患者さんの目を診ることが可能です。

 

もちろん、施設の大小に関わらず、優れたドクターはいます。ただ、大きな施設だからより質の高い手術ができるとは限らないのです。

 

大学病院で治療を受ける際には、自分の執刀医が眼科のどんな領域を専門にしているかについても確認すると良いでしょう。大きな病院では、在籍する医師の数が多く、トータルの手術件数に対して一人あたりの医師の手術経験はそう多くはないことがあります。ですから、規模が大きいか小さいかで判断するのではなく、執刀医の専門分野や手術経験を確認することがポイントになります。なかなか聞きづらいかもしれませんが、受診の際にそれとなく聞いてみるのも一つの手です。

 

余談になりますが専門外来についても、知っておくと良いことがあります。

 

僕が白内障手術を担当したある患者さんの話です。その方は、大学病院の「角膜外来」に長く通っていたそうですが、白内障については何の指摘も受けず、長い間放置したままになっていました。XX外来というと、非常に専門的で良いように思えますが、ある疾患に特化した外来という意味です。専門外来の医師が、眼の疾患すべてに精通しているわけではなく、専門以外の疾患は診ていないことが多分にありますので注意が必要です。

 

白内障はじめ、緑内障や黄斑変性といった疾患は、年齢とともに増えてくる病気です。視力が急に低下するようなことがあれば、眼科で改めて検査を受けるか、担当医に症状を伝え、診てもらってください。

 

 

中原 将光

中原眼科 院長

※本連載は、中原将光氏の著書『最高の白内障手術』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

スゴ腕サージャンが解説!最高の白内障手術

スゴ腕サージャンが解説!最高の白内障手術

中原 将光

幻冬舎メディアコンサルティング

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