地方は本当に豊かではないのか?
「地方=貧しい、ツマラナイ、何もない」といったイメージをもっている人はいるかと思います。確かに東京は日本でいちばん経済的に豊かな人が多い街であり、豊かな生活を送っている人もたくさんいるでしょう。では、自分自身の東京での暮らしぶりは豊かといえるのでしょうか。
今回のコロナ禍でリモート勤務になってからは、狭い1Kの部屋に一日閉じこもって終わる日が続くと聞きます。東京近郊の通勤時間の平均は往復1時間40分です。
一方で通勤時間の少ない地方の朝はゆっくりです。私は、朝、小学1年生の娘を自宅から歩いて数分のバス停まで送ります。バス停まではそれほど車の通りも多くないので、娘と並んで話しながら歩いていきます。自宅に戻ってからは、珈琲を妻と自分の2杯分、豆から挽いて淹れます。通勤時間は車で10分ほどです。夕食はコロナ禍で外食ができなくなった期間、天気が良い日は縁側で食べることが増えました。七輪で炭をおこして、肉などを焼いて家族団らんの時間を過ごします。
また私の会社は岡山に本社をおいていますが、出張で支店のある高知県四万十市に行くことも結構あります。そうしたときには時間を見つけて海に入り、サーフィンを楽しんでいます。休日は家族で四万十川の清流でカヌーやキャンプを楽しみ、その気になれば流行りのサウナも美しい自然のなかで堪能することができます。さらに、時には鳥取県の米子オフィスにいる社員が日本海側で採れた新鮮なアワビやサザエを送ってくれることもあり、そうしたときは自宅の縁側で社員や気心の知れた仲間と、採れたての魚介でバーベキューを楽しんだりしています。今シーズンは雪質が良かったので毎週末、車で2時間ほどのゲレンデに通いました。
地方には地方の豊かさや過ごし方があるのです。
人材不足だからこそチャンスあり
地方移住を決断するにあたって、満足いくだけの収入が得られるか不安に思っている方もいらっしゃるでしょう。しかし、地方には大都市で働くのとは別のチャンスがあります。
地方都市は、若い働き手の慢性的な人材不足です。地方では若くて体力もあって、まだまだこれからの伸びしろがある人材が本当に少ないのです。人材不足は人口減少や少子高齢化、雇用のミスマッチなどさまざまな要因が絡み合って生じる社会的な課題ですが、地方経済や地方企業にとってはすでに深刻な状態になっています。
実際に大都市圏への人口流出が進んでいる地域では、現場の人材不足をカバーするために経営や中核的な役割を担う人材が現場の仕事にばかり駆り出され、本業がおろそかになってしまっている企業もあります。さらに深刻な場合には事業の運営に必要な人員すら確保できずに倒産する「人手不足倒産」を余儀なくされるケースもあります。
企業のみならず町にとっても人手不足は深刻な問題です。過疎の進んだ地域ではすでに現実化していることですが、人手不足の進行は住民の生活に必要な機能・サービスの担い手すらいなくなることを意味するからです。例えばスーパーを経営しようという人材がいないから山を越えて、隣町まで行かないと物を買うことができない。こんな不便が続けば人口はますます減り、町は消滅の危機に陥ってしまいます。そのような場所には宅配サービスもありません。
もしそこで日用品の宅配サービスを始めれば、あっという間に需要をつかんでビジネスにすることができるかもしれません。都会では絶対に不可能ですが、地方ならビジネスになる可能性が十分にあるのです。
必要とされる仕事こそ、やりがいのある仕事になる
よくいわれることですが、ビジネスチャンスは「不」の付くところに発生します。不便や不足していて困っていることに対して、ソリューションを提供することが仕事の本質です。これが直接感じられると、人は案外どんな仕事でも充実した気持ちで働くことができるものです。
しかし都会にいると自分のやっている仕事がいったい誰の役に立っているのかがよく分からないことが結構あります。本来誰かのためにやっているはずの仕事が、競争が激し過ぎて、それよりもどうやったらうまく自分の評価を高めることができるか、どうすれば同じ時間内で効率的に立ち回れるかといったことが重要になっていってしまうのです。
しかし地方ではそんなことを競い合う必要はほとんどありません。なにしろ競う相手もいないので、いくらでも活躍の場が用意されているのです。「なんとかして活躍の場を得たい」と考えている人からすると、地方での人材不足はチャンス以外の何物でもありません。
厚生労働省の調査によると2021年7月の有効求人倍率(有効求職者数に対する有効求人数の割合。1以上の場合には人手不足、1以下の場合には人余りを意味します)は、東京都で0.91倍、大阪府で0.94倍となり「買い手市場」になっている一方、地方都市の人材不足はまだまだ深刻で、福井県では1.95倍、秋田県で1.70倍、島根県では1.69倍と「売り手市場」の状況が続いています。
またこれはコロナ禍前の調査になりますが、日本商工会議所が2019年に発表した「人手不足等への対応に関する調査」によると、人材不足が続く状況のなかで「一定の経験を有する若手社員」「即戦力となる中堅層・専門家」を求める企業が特に多いという調査結果が出ています。
有効求人倍率は地域や産業によってばらつきがありますし、求める人材像に関しては企業によってさまざまな違いがあるので一概にはいえませんが、東京や大阪など大都市の会社で仕事をした経験のある20代、30代のビジネスパーソンが地方都市に舞台を移せば、これまでに培ってきたスキルやノウハウを最大限に活かしながら活躍できる場所は間違いなくたくさんあります。そして能力のある人なら、自分で起業しても成功する可能性は大都市よりも高いはずです。
地方では個人の力を発揮できる機会が多い
東京と地方企業での違いを野球に例えると、東京の企業はメジャーリーグやプロ野球の世界です。選手はもとより監督・コーチなどのスタッフを含めた全員が、最高の技術やスキル、ノウハウを兼ね備えた選りすぐりのプロフェッショナル集団です。そのなかで不要な人材はどんどん切り捨てられ、とにかく優秀な人材をかき集めてくることが常に行われています。切り捨てても優秀な人材はいくらでもいるのです。
一方で地方の企業は草野球の世界です。よほどのエリートチームでもない限り、メンバーを排除するという発想はありません。人の短所を見て弾き出すのではなく、長所を見て活用しようとします。そこにそろったメンバーのなかで試合に挑みます。そのなかで“適所”を模索し続けます。メンバーの力を引き出したり、バラバラな気持ちをまとめたりしながら勝てるチームをつくり上げるのです。
そこで必要とされるのがマネジメントのスキルやノウハウです。この力はできるだけ組織規模の大きい企業で仕事をしたほうが身につけやすいものです。東京でこれらのスキルを身につけ、地方に移住し適切なポジションを見つけ、正確に努力を重ねることができれば活躍するチャンスは大きく広がります。“鶏口牛後(大きな組織の尻尾にいるよりは、小さい集団のトップになりなさい)”ではありませんが、それなりの権限をもったポジションに出世するのを我慢しているよりは、地方都市に出て知的労働者としての能力を最大限に発揮できるポジションに就くほうが個人の力を存分に発揮するチャンスは多いのです。
森 康彰
有限会社e.K.コンサルタント 代表取締役
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