(※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、チーフグローバルストラテジスト・白木久史氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。

 

<今日のキーワード『全固体電池』>

トヨタ自動車は技術説明会で、電気自動車(EV)の性能を飛躍的に向上させる『全固体電池』を2027年にも実用化すると発表しました。このニュースを受けて同社株は2日間で約11.6%上昇し、時価総額は約3.9兆円も増加しました。EV大競争のゲームチェンジャーとされる『全固体電池』とは、いったいどんな電池なのでしょうか。

 

[図表1]トヨタ自動車の株価

『全固体電池』って何ですか?

■従来のEVやハイブリッド車(HEV)に搭載されるリチウムイオン電池やニッケル水素電池は、電極から「液体」の電解質に電気を取り込み充電します。一方この『全固体電池』では、電解質を固体に変えることで、電池のエネルギー密度を高め、EVの性能を大きく改善することができるといわれています。このため『全固体電池』は、リチウムイオン電池に代わる次世代電池の本命とされています。

『全固体電池』で飛躍的に向上するEVの性能

■『全固体電池』の最大の特徴は、エネルギー密度が高いため、従来の電池に比べて小さくても大きな容量の電池をつくることが可能になることです。このため『全固体電池』が搭載されたEVは航続距離が伸び、充電時間も飛躍的に短縮化することができるとされています。現在、EVの使い勝手の悪さ、普及のボトルネックとなっているのは、主に航続距離の短さと充電時間の長さですが、『全固体電池』の実用化により、こうした問題が一気に解決する可能性があります。

 

■さらに、固体の電解質は液体と比べて安定性が高いため、リチウムイオン電池などとくらべて発火のリスクが低いとされています。こうした安全性の高さも、『全固体電池』の大きなメリットとして挙げることができます。

 

[図表2]リチウムイオン電池と『全固体電池』の比較

今後の展開:破壊力抜群の『全固体電池』、EV業界の勢力図に激変も

■トヨタ自動車はこれまで、EV戦略での出遅れが指摘されてきました。このため、強固な財務体質や高い収益性にもかかわらず、最近まで積極的な評価が見送られてきたようです(図表1)。しかし今後、競合に先駆けて『全固体電池』の開発・実用化にこぎつけた場合、EV業界における同社の地位は一変する可能性があります。

 

■EVの普及については地域間でばらつきがありますが、世界の2大市場の一つである米国では、長距離移動の手段としての自動車の重要性から、電池の性能が市場拡大の妨げとなってきました。仮に『全固体電池』が実用化し、普及していくと、現在は中国や欧州に比べて出遅れている米国におけるEVの販売シェアは、急速にキャッチアップする可能性があります。

 

■一方、世界の大手自動車メーカーやEV向け電池メーカーは、社運を賭けてEV用電池工場に大規模な投資をしています。もし、これまでの見込みよりも早くEV用電池が『全固体電池』に置き換わることになると、巨額投資がその償却前に陳腐化するリスクが台頭しかねません。このため、現在の中国を中心とした世界のEV用電池のサプライチェーンは激変するだけでなく、従来のEV向け電池工場が座礁資産となってしまうリスクがあるため注意が必要でしょう。

 

■今後、『全固体電池』の開発競争はさらに活発化することになりそうですが、『全固体電池』の実用化と普及は、EVシフトを加速させつつ激変をもたらしかねない、まさに「ゲームチェンジャー」と言ってよさそうです。
 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『トヨタの時価総額、『全固体電池』の実用化目途発表で「約3.9兆円」も増加したワケ【ストラテジストが解説】』を参照)。

 

白木 久史

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフグローバルストラテジスト

 

 

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