還暦目前に大企業からスタートアップへ転身…
転職では年齢がネックになるケースもありますが、スタートアップでは「『成果を出せるスキル』さえあれば、年齢は関係ない」という企業が多くあります。
大手食品メーカーで働き、マーケティング部長をしていた当時58歳のYさんは、新世代のバイオ素材を開発するスタートアップのマーケティング責任者として転職をしました。
同社は大学発の研究開発型スタートアップで、ユニークな天然素材にヒントを得た独自の人工たんぱく質素材を開発・販売しています。化学繊維に似た衣類の素材や樹脂などへと加工の幅が広いうえに、廃棄後は土や水中で分解されるため環境負荷が低い新素材で、2021年になって海外の投資会社から国内最大級の資金調達をするほど、世界的に注目されている企業です。
たんぱく質の量産の目処がつき、いよいよ新素材を使った衣料品をつくって売ろうという段階に入っていましたが、「B2C商品をどうやって売っていけばいいか、わからない」という課題を抱えていました。
そこで、コンシューマービジネスがわかるマーケティングのプロであるYさんとマッチングしたのです。
「もっと人の役に立ちたい、キャリアでひと花もふた花も咲かせたい」
Yさんとこのスタートアップの社長との最終面談には、僕も同席しています。
技術者はいるけれどもマーケティングはわからないし、会社としての体裁がまだ整っていない、同社の当時30代の若い創業社長と、百戦錬磨の経験がある年配マーケッターとの、お互いのニーズがマッチした瞬間でした。
ただし、「年収だけは、申し訳ないけれど、それほど出せない」と社長が申し入れ、「構わない」とYさんが快諾したのです。
Yさんは定年退職の年齢が迫る中で、「もっと人の役に立ちたい、キャリアでひと花もふた花も咲かせたい」という思いが募っていたのだそうです。
「この会社なら、マーケティングや営業として長年働いてきた私の経験を活かし、貢献できるかもしれない」と感じたそうです。
第二のキャリア人生を築く
新卒から有名な大企業で花形のキャリアを積んできて、定年間近だったYさんがスタートアップに定着するかどうか、はじめは僕も心配しました。
年収も前職から半減しましたし、ポジションも取締役ではなくマネジャー職からのスタートでした。しかもこのスタートアップは地方に拠点を置く会社のため、転職と同時に単身赴任生活をすることとなります。
しかし転職から4年以上経ったいまも、Yさんは同社で大活躍し、第二のキャリア人生を築いています。
年齢的にも、家族も「好きな仕事を自由にやってくれていいよ」と応援しているのだそうです。
藤岡 清高
株式会社アマテラス代表取締役CEO