50目前…氷河期世代の非正規社員「低い給料に、もう限界」
「非正規社員でいるのは限界です。あまりに給料が低すぎる。どうにかして、いまからでも正社員の道は探せないものか」
切羽詰まった状況で語るのは、もうじき50代になろうかというある非正規の男性だ。
厚生労働省『令和4年賃金構造基本統計調査』によると、男性正社員(平均年齢43.5歳)の平均月収(所定内給与額)は35.3万円、賞与も含めた年収は579.8万円。一方、男性非正規(平均年齢52.8歳)の平均月収は24.7万円、年収は353.4万円となっている。
その差額、月収およそ約10万円、年収およそ約230万円。仮に、この男性が非正規社員の平均的な給与の場合、月収はおよそ24万円ほどということになる。
大卒後の同世代が、正社員と非正規社員になったとして、最初の給与差はあまり大きなものではなく、20代前半では月に1.6万円、年収では70万円弱ぐらいだ。だが、年齢を重ねるごとにこの差は確実に大きくなっていく。20代後半になると、年収では100万円以上に、30代後半では200万円差、40代後半では300万円もの差が開くのである。
◆年齢別「正社員」と「非正規社員」の給与の推移
20~24歳:22.1万円(20.6万円)/346.1万円(278.7万円)
25~29歳:26.2万円(22.6万円)/437.3万円(315.4万円)
30~34歳:30.1万円(23.3万円)/508.0万円(328.1万円)
35~39歳:34.1万円(23.3万円)/573.4万円(329.5万円)
40~44歳:37.0万円(24.4万円)/616.2万円(339.2万円)
45~49歳:39.5万円(24.0万円)/652.0万円(335.6万円)
50~54歳:42.1万円(24.1万円)/693.1万円(334.3万円)
55~59歳:43.1万円(24.7万円)/701.6万円(351.2万円)
60~64歳:35.0万円(28.3万円)/537.2万円(428.0万円)
出所:厚生労働省『令和4年賃金構造基本統計調査』より
※数値左より、正社員の月収(非正規社員の月収)/正社員の年収(非正規社員の年収)
ブラック企業の正社員「毎日ズタボロ、鏡に映った自分に戦慄」
「勤務先がブラックすぎて、精神も体も限界です。とてもではないが、これ以上ついていけない。同僚たちは大半が退職しました」
そう語るのは、数か月後に50歳の誕生日を迎えるという、中小企業勤務の正社員の男性。最低限の従業員数で大量の仕事を回すため、負担が大きすぎて、心も体も疲れ果てているという。
「毎日本当にヘトヘト、ボロボロで、鏡に映った自分の姿にゾッとします。亡くなった父が私と同じ年齢のときには、夜8時には家族で夕食を囲んでいたし、給料だっていまの私より高かった。なぜこんなに違うのか…」
この2人が大学を卒業したころは「就職氷河期」。当時は有効求人倍率が1.0倍を割り込んでおり、せっかく学校を卒業しても、非正規社員としての社会人スタートとなってしまった人たちも、一定数以上存在した。
また、当時は現在に比べ、労働者の立場が不利であり、せっかく正社員となっても過酷な労働を強いられ、使い捨てにされ、心身ともにボロボロになるケースもあった。
だが、そんな同世代を「どっちもばからしい」といっているのは、起業した男性だ。ごく小さい会社ながらも経営は堅調で、年収は軽く2000万円を超えるという。
この経営者の男性も、最初は上記の2人と同じルートをたどっていた。大学の卒業を控え、必死で就職活動を展開し、なんとか正社員の椅子を勝ち取ったものの、就職先は「スーパーブラック」だったという。男性は語る。
「この場所で生き残る努力をするのは、まったくの無駄だと思ったんですよ。まじめな同僚は、ズタボロになるまで働いて、結局、精神的に追い詰められて退職しました。なぜそこまで我慢する必要があるのか、私には理解できませんでした。入社して1ヵ月で退職を決意しました」
「心身を病んだ同僚は、きっと、まじめな両親に〈努力すれば報われる、評価される〉といわれて、それを信じて行動したのでしょうね。でも、年功序列も終身雇用も、私が就職するころには〈いずれなくなる〉といわれていた。時代がここまで大きく変化しているのに、昔の物差しを基準に努力したって、うまくいきっこないじゃないですか」
起業した男性は、仕事のプレッシャーが大きくラクではないというが、自分の裁量で働ける自由さは決して手放せないという。
「非正規社員にしろ、ブラック企業の正社員にしろ、報われないのがわかっているのに、その場から離れないのはその人本人の責任ですよ。私だって仕事は大変ですし、プレッシャーも大きいですが、勤務先からの評価で人生が決まるという、哀しさや無力感はない」
氷河期世代のなかには、豊かな日本を生きた親の価値観を素直に受け入れたままの人たちが、まだ多くいるのかもしれない。令和となったいま、そろそろそんな価値観を捨て、発想を転換すべき時期が来ているのではないか。
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