「ホームラン」ではなく「ヒット」を狙う
広い意味での投資は「成長株投資」のように、成長性に資金を投じる行為です。
◆「テンバガー狙い」の醍醐味と危うさ
たとえば、日本株ならワークマン(7564)やMonotaRO(3064)、米国株ならテスラ(TSLA)といったテンバガー(株価が10倍高になった銘柄)のように、特大ホームラン級の利益が得られることがあります。
100万円の資金が、1億円以上に激増することも、投資の世界には事例として数えきれないほど存在します。
しかし、トレードは基本的には、ヒット狙いで堅実な利益を優先することをオススメします。
もちろん投資の世界の話ですから、時にはビックリするほど利益が出ることもありますが、最も重要なことは「再現性が高く、繰り返して利益が得られる」ということですから、いきなりホームランは狙わずに、ヒット狙いをしていきましょう。
特に、一攫千金の利益は投資をする上で多くの人が憧れるものですが、ホームラン級の急騰銘柄や投資対象というものは、同じように大きく急落する可能性を秘めているということを忘れてはいけません。
◆テンバガー達成後に急落した事例
たとえば、上図は企業のIRなどのコンサルティング会社のアイ・アールジャパンホールディングス(6035)の2019年以降の株価の動きです。
2019年初頭の株価は約1,100円でしたが、そこから急成長による上昇トレンドに乗って1年後には約5倍、2年1ヵ月後には約17倍の19,000超に達し、テンバガー銘柄となりました。
しかし、そこをピークに急落し、2022年3月には4,000円を切り、6月には約1,800円にまで下落するといった激しい値動きとなりました。
前節で説明した「大数の法則」は不確実な投資の世界において、唯一といっていいほど投資方針の拠り所となるものですが、ホームラン級の利益が何十回、何百回と繰り返し再現できるかというと、残念ながらそういうことはありません。
大数の法則が働くように、コツコツとヒット狙いの投資をすることで、最終的にはホームラン狙いの投資家よりも堅実に資産が構築できているはずです。
さらに、ホームラン狙いの投資にはほかにもリスクが眠っています。
どうしても、ホームランになるまで保有しようということで、保有期間が長くなってしまいます。
株式投資では日足で売買するなら、トレード投資家は「波動」という数日から10数日程度の上昇や下降(下降を利益にするには信用取引の「空売り」が必要)で、利益を狙うことをオススメしますが、ホームラン級の利益を狙おうとすると、数ヵ月から数年という長い保有期間を要することもあります。
1回のトレードで1年から数年保有するとすれば、大数の法則が働くようになるまで売買回数を重ねることもできませんし、その間に、たとえば近年のコロナパンデミックやウクライナ侵攻のように、ビックリするほどの地政学的リスクが発生することもあります。
株は長く持つものだ、という教えもありますし、長期投資こそ安全だという考えの方もいるでしょうが、最終的には株の利益はタイミング次第です。
どの銘柄にも必ず上がり下がりがありますから、高いところで買った後で下がってしまうことがあり、その場合元の価格に戻るまで何年、何十年と時間を要することもあれば、自分が生きているうちには戻らないこともあり得ます。
ヒット狙いの堅実なトレードをしていこうということであれば、少なくともこのような大損のリスクは大幅に軽減できますし、トレードがギャンブル化しにくくなります。
一番大切なことは、リスク管理に敏感になり、安定的な利益を継続的に得るための「安定投資家、安定トレーダー」になるという心構えが大前提にあるということだと思います。
髙橋 慶行
株式会社ファイナンシャルインテリジェンス 代表取締役