幸せな暮らしのはずが…A家に起こった「想定外の事態」
しばらく、ご両親・A夫妻・子ども2人と3世代での幸せな暮らしが続きました。提案どおり、Aさん、Bさんが忙しいときは祖父母が孫のお世話をしましたが、家自体は玄関や水回りを含め完全に分離されているため、ストレスはほとんどありません。ときには、3世代一緒に旅行に出かけることもありました。
しかし……。そんな日々が3年ほど続いた、ある日のことです。
80歳になったAさんの父に、ガンが見つかりました。自覚症状はほとんどなかったものの、見つかったときにはもう手遅れで、お父さんはあっという間に亡くなってしまいました。遺された母の心の空白は、なかなか埋まりません。
それに加えて、Aさんの母には認知症の症状が出始めていました。看護師のBさんはいち早くそれに気づいたものの、日々の激務からすぐに対処することができません。当初はごまかし、ごまかし過ごしていましたが、だんだんと症状が進行していきます。
夫婦共働きのAさんとBさんは変わらず忙しい毎日でしたが、認知症の母親に子どもたちの世話を任せるわけにもいきません。A夫妻は悩んだ末、母親を老人ホームに預けることにしました。
弟の発言で「大きな亀裂」が入ったA家
3世代での幸せな共同生活は、思っていたほど長くは続きませんでした。残ったのは、あと10年~20年は一緒に暮らせるだろうと思っていた広い家とAさん、Bさん、2人の子供たち。それに、完済までまだ何年もある建物部分の住宅ローンです。
なんとか気持ちを切り替えて暮らし始めたA家でしたが、新たな悩みの種が生じることになります。
父親の相続手続きをしていたときのこと、Aさんの弟がふいにこぼしました。
「二世帯住宅には賛成したけど、こんなことになるとは思いもしなかった。実際、兄貴もBさんもお父さんの世話はほとんどしてないだろ?……お母さんも早々に施設に預けることになったし」
弟の言っていることは事実ではあるものの、どこか言葉にトゲがあります。まるで、母親を施設に入れたことが悪いことだと非難しているかのようです。
「Bさんは看護師だし、両親の面倒を見てくれると思って賛成したのに……全然じゃないか」
弟の言い分はわかりますが、看護師の仕事をしているからといって、四六時中親の世話をできるわけではありません。Bさんは責められ、当惑してしまいました。
ヒートアップする弟は、「この家の土地の権利は、兄貴と同じだけあるんだよね」と言い放ちます。
子供の法定相続分は人数の分だけ均等になりますから、これも間違いではありませんが……、A夫妻と弟とのあいだには、大きな亀裂が入ってしまいました。