孫のためになにかしてあげたいと、祖父母が資金援助をしているケースは少なくありません。75歳のAさんも、長女の頼みで孫へ「1,000万円」の贈与を決断します。しかし「まさか」の事態に、自身の老後生活に暗雲が立ち込めるのでした……。株式会社アイポス代表の森拓哉FPがAさんの事例とともに、無計画な贈与のリスクについて解説します。
かわいい孫の笑顔が恨めしい…75歳祖父「貯蓄額6,000万円」も、孫への「教育資金1,000万円一括贈与」で老後破産の危機【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

かわいい孫のために「1,000万円一括贈与」を決めた75歳Aさん

祖父母にとって、孫の成長は大きな喜びです。そんなかわいい孫に喜んでもらうために、祖父母が経済的に支援をしてあげるというのは珍しいことではありません。金融広報中央委員会の調査によると、40代の金融資産保有額が平均785万円であるのに対し、70代は1,755万円と2倍以上にのぼります。
※ 金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」より

 

40代は住宅ローン返済を抱えていることも多く、資金準備が十分にできておらず、子育てや教育のうえで、金銭的に苦労しているケースも多く見受けられます。そんなとき、すでに子育てや住宅ローンの支払いを終え、さらに充実した年金制度のある祖父母が、孫のために教育資金を援助するというのはよくあることです。孫や子どもが喜ぶ顔をみるのは祖父母としても嬉しいものですから、なおさらです。

 

75歳Aさんも例に漏れず、孫がかわいいばかりに、ついつい資金援助しすぎてしまい、後々真っ青になってしまうのでした……。

 

長女の頼みで…中学受験する孫に「教育資金一括贈与」を決断

Aさん(75歳)は大手製薬会社を退職後、経理部にいた自身のスキルを活かし、同じ会社で「必要なときに呼ばれ、サポートする」という働き方をしながら、充実した老後を過ごしていました。長年勤めた企業で、年金制度は充実しています。また、Aさんは母親から思いもよらず2,000万円ほどの現金を相続。自身の貯蓄と合わせると、合計6,000万円ほどの金融資産があります。

 

Aさんの長女には男の子Bくんと女の子、長男にもそれぞれ女の子と男の子がおり、Aさんには孫が4人います。このうち、1番年上の孫であるBくんは、8歳になったころ学習塾に通い始めました。Bくんはそれをきっかけに、みるみる成績を伸ばします。塾の先生いわく、「Bくんはとても勉強のセンスがあります。いまからスーパー進学コースに通って2年間中学受験の勉強をすれば、あの有名私立中学への進学も可能ですよ。お母さん、Bくんの可能性を信じてみませんか?」とのこと。

 

そんなことを言われて、悪い気のする親はいません。長女としても、可愛いわが子の才能を開花させたい気持ちはやまやまです。しかし、いかんせん長女夫婦は住宅ローンを組んだばかりで、日々の生活に四苦八苦している状態でした。

 

「塾代がさらにかかると家計は破綻寸前……。とはいえ、このままBの将来の可能性を閉ざしてしまうのも……」親として心苦しい気持ちを抱えつつ、長女は藁をもすがる思いで、父であるAさんに教育資金の援助を相談しました。

 

話を聞いたAさんは、「かわいい孫の将来のためになんとかしてやりたい」と一念発起。そこで金融機関を訪ねたところ、「Aさんは相続税もかかってきますから、教育資金贈与信託を活用して、非課税でお孫さんに教育資金を贈与されてはいかがですか?」とアドバイスを受けます。

 

「教育資金贈与信託」とは、30歳未満の孫などの「直系卑属」に対し、教育資金を1,500万円まで非課税で一括贈与できる金融商品のことです。こうすることで、贈与税をかけずに孫にまとまったお金を支援できるため、Aさんの相続税対策になります。Aさんは早速これに申し込み、1,000万円を一括贈与することにしました。