遺贈とは? 包括遺贈と特定遺贈の2種類の違いは
遺贈は、遺贈者が受贈者(財産を譲り受ける人)を遺言書で指定し、無償で財産を譲渡する方法です。遺贈を譲り受ける人は誰でもよく、法人でも構いません。
なお、遺贈は遺贈者が亡くなってから、遺言書に従い手続きが進められるので、生前に財産を譲る贈与とは異なります。
遺贈には包括遺贈・特定遺贈の2種類があります。
包括遺贈
遺贈者が遺言で自身の財産の全部または一定の割合を指定し、譲りたい人へ遺贈する方法です。例えば配偶者と子A・Bが相続人となる場合、全財産の3分の2配偶者に、6分の1を子A、6分の1を子Bに遺贈する、という形で分けます。
なお、遺贈者に借金等の債務がある場合、包括受遺者は遺贈された割合に従い、その債務も引き受けなければいけません。
特定遺贈
遺贈者が遺言で、財産を個別に指定した人へ遺贈する方法です。建物を誰に遺贈するのか、預貯金は誰に遺贈するのかというように、個別に財産の受贈者を決める遺贈方法です。
受遺者は特定の財産のみを取得するにとどまるものの、借金等の債務を指定されない限り、遺言にない債務を負担する必要はありません。
一方、遺贈と似ている制度に相続があります。相続は被相続人の財産を、法律で定められた相続人達が引き継ぐ方法です。法律で相続できる人の範囲は定められており、相続できる順位や相続割合が決まっています。
遺贈の放棄はできる? 相続放棄との違い
遺贈は受遺者の意思にかかわらず遺贈者が単独で決定できます。しかし、受遺者側で無理に財物を受け取る必要はなく、遺贈の放棄が可能です。なお、遺贈の承認や放棄をする場合は原則として撤回不可能なので、意思表示は慎重に検討する必要があります。
遺贈を放棄するケースとは?
受贈者が受け取りたくない財物を遺贈された場合、遺贈の放棄が考えられます。例えば受贈者は遺贈者の預貯金を受け取りたかったが、預貯金ではなく自分の所在地から遠い場所にある不動産を遺贈されたケースがあげられます。また、他の相続人が望んでいた財産を受け取ってしまい、その相手方との間でトラブルの発生を懸念するケースも該当します。
加えて、遺贈する内容に遺贈者の債務(借金等)が含まれ、その負担を嫌う場合にも放棄が可能です。
遺贈放棄の効果
遺贈を放棄すると、遺贈者の死亡時までさかのぼって効力が発生します。つまり遺贈を放棄すれば、受遺者へ財産の所有権が移転した事実は初めから無かったことになります。
遺贈の放棄による効果は、包括遺贈と特定遺贈で次のような違いが出ます。
包括遺贈の場合
包括遺贈が放棄されると、他の相続人の相続分または受遺者の受遺分が増えます。具体例をあげて説明します。
(例1)配偶者が遺言で受遺者となり全ての遺産を取得した
相続人は次の3人です。
・配偶者:受遺者として全ての遺産を取得
・子A:何も取得せず
・子B:何も取得せず
配偶者がこのような遺言内容では、子A・Bがかわいそうだと感じ包括遺贈を放棄すると、法定相続分に従い各相続人が遺産を承継することとなります。
このケースであれば法定相続分の割合は配偶者1/2、子A1/4、子B1/4です。
(例2)包括遺贈で相続人(受遺者)3人が遺産を均等に取得した
包括遺贈の割合は次の通りです。
・配偶者:1/3
・子A:1/3
・子B:1/3
配偶者が自分の遺贈を放棄した場合、残った子A・Bは法定相続分に従い財物を分けます。
このケースであれば法定相続分の子A1/2、子B1/2です。
特定遺贈の場合
特定遺贈が行われた場合、対象財産は遺産分割協議の対象から外され、残りの遺産を相続人間でどう分けるのか決定していきます。
しかし、特定遺贈が放棄された場合は、改めて対象財産を遺産分割協議に組み入れて、相続人間で分割方法をどうするのか話し合います。
遺贈の一部放棄は可能か?
受贈者が遺贈者の財産の一部を受贈し、一部を放棄したい場合は、包括遺贈と特定遺贈でその可否に違いが出てきます。
まず、包括遺贈の場合、受遺者は相続人と同一の権利義務を有します(民法第990条)。つまり、プラスの財産だけでなくマイナスの財産(借金や未払金等)も指定された割合で受け継ぎ、一部放棄は認められません。
一方で特定遺贈の場合、遺贈される財産が分けられるものなら一部放棄は可能です。例えば、預貯金5,000万円が特定遺贈された場合、2,500万円だけ受け取り、残りの2,500万円を放棄できます。
放棄後は他の相続人が話し合いで、放棄された2,500万円の分与を決める方法が認められます。
遺贈と相続放棄との違い
包括遺贈・特定遺贈と相続放棄はそれぞれ次のような違いがあります。