『ワンピース』は、お金や名誉のためなら平気で人を騙す、裏切る、そうした卑劣で卑怯な海賊と、ルフィとその仲間たちの絆をかけた戦いです。
これが今、日本で一番人気のあるマンガであることに私は安堵感と希望をもっています。私も読んでいてほろっとくる、胸がジンとなる。そんな物語が日本に力強く息づいている。そして、それをよしと感じる若い人が大勢いる──それをうれしく思いました。
ちなみに、昔、世界に影響を与えた伝説の日本映画がありました。黒澤明監督の『七人の侍』(一九五四年)です。この物語は、麦の収穫期になると毎年盗賊に襲われる村を救うために、一人の侍が仲間を募って、お金でもなく名誉でもなく、村人との約束を果たすために命をかけて戦うという物語です。
この映画は、ハリウッドにも影響を与え、『荒野の七人』(ジョン・スタージェス監督、一九六〇年)という、侍がガンマンに代わっただけの、まったく同じストーリーでシリーズ化されて世界で大ヒットしました。
そうですね。ルフィが集めた仲間たちも、ゾロ、ナミ、ウソップ、サンジ、チョッパー、ロビンと全員で七人です。ワンピースの作者も『七人の侍』の大ファンだったそうです。
昔から日本は、仲間の絆を何よりも大切にする、そういう心が脈々と受け継がれている、世界中が憧れる素晴らしい国なのです。そのことを我々自身が気づいて、自信をもつことが大切だと思いました。
これからの日本、あるいは世界にとって、ますます家族の絆、仲間の絆、人と人とのつながりが重要になってくると思います。ルフィのように、日本人が昔から大切にしてきた、自分のことをあとにして人のことを考えられる力、仲間に対する優しさや思いやり、それを本校でもしっかりと育てていきたいと思います。
一生懸命さは伝わる(二学期終業式・二〇一三年一二月)
今日は、知的障害のある従業員が七割もいるという会社の話です。日本理化学工業(川崎市)はチョークをつくるメーカーで、学校にとても馴染み深い会社です。この会社の経営方針は、「一人ひとりの良さを仕事に生かす」だそうです。
一九六〇(昭和三五)年、当時の養護学校、今は特別支援学校と言いますが、そこの先生が会社を訪れて次のようにお願いしたそうです。
「就職が無理なら、せめて働く経験だけでもさせてもらえませんか。このまま施設に入ったら、一生働く喜び、人の役に立つことを知らないで終わってしまいます」
しかし、現在いる従業員のことを考えて、社長さんはこの要請を断ったそうです。ところが、何度も来て熱心に話をする先生に根負けして、従業員には「申し訳ない」と思いながら引き受けたそうです。ところが、障害者の就業体験が終わるころ、従業員の代表が社長室に来て、「私たちが面倒を見るからずっと使ってほしい」と頭を下げたそうです。無心で働く一生懸命な姿にみんなが感動したのです。
その社長さんは、究極の幸せとは、人の役に立つこと、人から必要とされることだと教えられ、障害者の多数雇用を決心したそうです。
この会社の入社条件は、食事・排泄は自分でできること、簡単な会話ができること、一生懸命に仕事をすること、周りの人に迷惑をかけないことだそうです。
さて、みなさんは、この入社条件を満たせているでしょうか? 社長さんが、次のようなエピソードを教えてくれました。
会社見学に来たある小学生が一生懸命に働く障害者の姿を見て感動し、「神様は誰にも人の役に立つ才能を与えてくれている」と手紙に書いたそうです。一生懸命に働く姿、一生懸命に勉強する姿、一生懸命に話を聞く姿、すべてに共通するのは、誰が見ても素晴らしいものだと感じることです。
そして、その能力は誰にでもある、そういうことをこの会社が教えてくれています。